𡈽方 大|展覧会をつくる人
このコラムはこれから初めて展覧会をやってみようと思っている方や、何度か展覧会をした事はあるけどまだよくわかっていないという作家、企画者、会場管理者など展覧会に関わる方たちに向けて、展覧会を作る際のポイントをできるだけわかりやすくまとめたものになります。
規模としては、主に現代美術の予算数万円から数百万円ほどの展覧会を想定しています。
参考例の一つとしてご活用ください。
各ポイントをどなたが責任をもって担当するかは、施設運営上のルールで決まる事もありますし、企画内容であったり話し合いで決まる事もありますので一つ一つの事項についてしっかりと話し合いながら確認をしていって下さい。
「展覧会をつくる人のためのガイド」シリーズは3部構成となっております。
・vol.01 コミュニケーションの心構え
・vol.02 具体的な確認事項
・vol.03 おすすめの参考Webサイト、書籍
vol.01
コミュニケーションの心構え
・コミュニケーションコスト
「展覧会をつくる」ということは、とにかく話し合うこと、確認することが山ほどあります。また、展覧会会場や管理者が変わるとルールも変わるため、毎回同じルールが適用されるわけではありません。そのため、展覧会を行うたびに、コミュニケーションコスト(誤解なく分かり合うための情報伝達や意思疎通にかかる時間と労力)が発生します。
展覧会におけるほぼ全てのトラブルは、コミュニケーションを疎かにすることに起因します。コミュニケーションは何よりも大切にしましょう。
・契約
呪文の様な契約書を読むのも書くのも億劫だと思いますが、トラブル回避に一番役に立つのが契約書です。
美術館や芸術祭など、規模の大きな展示では確認事項が多岐にわたるため、基本的に契約書を交わします。契約書があれば、予算や責任範囲、権利関係の明確化、重要情報の相互確認ができるため、「言った・言わなかった」の水掛け論や、お金の支払い、作品画像の取り扱いなど、トラブルになりやすい部分を回避できます。
個展やグループ展など小規模な展示でも、可能な限り契約書を作成することをおすすめします。契約書を作らずに展示を行うこともありますが、可能な限り作家側は企画側や管理側に契約書の作成を依頼するようにしましょう。
契約書作成はお互いに面倒に思うかもしれませんが、本コラムのvol.02で確認していく内容がそのまま契約書の文面となるため、実際にはそれほど難しくありません。施設側で既存の契約書フォーマットがあれば、それを活用すれば問題ありません。新しく作成する場合でも、インターネット上にフォーマットが多数ありますし、AIを活用すれば短時間で作成可能です。
高額な契約を結ぶ場合は、専門家にチェックしてもらうことも有効です。
契約書を交わさない場合でも、確認事項を全てチェックすれば、作家側・管理側双方が準備すべきことや、責任と権利の所在を明確にできる為、安心してより良い展示を作ることができます。また、トラブル発生時の証拠情報としても役立ちます。
・連絡方法
1対1のやり取りはできるだけ避けましょう。情報が閉鎖的になり、トラブルの原因になりやすいです。多くの人に確認してもらいながら進めた方が抜けがあった際に助けになってもらったりアイディアをもらったりすることもあります。打ち合わせには関係者に出席してもらい、メールでは関係者全員をCcに入れ、LINEやMessengerでのやり取りは必ずグループを作成し、適宜メンションをつけてやりとりをしましょう。
また、テキストメッセージはできるだけ YES or NOの二者択一で回答できる質問の形式に文章を整える優しさがあると進行がスムーズになります。二者択一ではなく相談事はメールなどのテキストではなくオンラインMTGや対面での話し合いの方がスムーズに進みます。展示の規模によりますが、隔週か一ヶ月の頻度で定期の打ち合わせ日程を事前に設定し、特に相談事がなければキャンセルするという方法をおすすめします。
・挨拶
展覧会に関係する全員に必ず挨拶をしましょう。誰が今回展示する作家なのか、誰が担当者なのかを関係する全ての人に周知しましょう。展示会場は大切なものを大事に扱う場所であり、たくさんの人間が出入りする場所でもあります。きちんと挨拶をして自身が不審者ではないこと、関係者であることを周りに最初に理解してもらいましょう。
・レスポンス
基本的にはレスポンスは早い方が円滑に進行できます。手が離せない場合は後ほど連絡すると一言返すだけで大丈夫です。レスポンスがないとお互い不安になりますし、連絡が遅かったことで発注や運搬ができないものが出てきたり、予算が膨れ上がることが多々ありますのでお金がかかることに関しては余裕を持ってやり取りをしましょう。
また、夜間に連絡をするのは極力避け、事前に連絡が取りづらい時期や時間帯などの情報は共有しておきましょう。皆さんしっかりと睡眠をとり、プライベートの時間を大事にしましょう。
・議事録(タスクと締め切り)
打ち合わせの前には、話し合う内容を箇条書きにし、Googleドキュメントなどで共有しましょう。話し合いながら記入し、打ち合わせ終了時には議事録が完成する状態にしておくのが理想です。また、話し合っている中で誰が何をいつまでにするかのタスクリストも作成しましょう。これをつけないと驚くほど何も進まずに時間だけが過ぎていきます。責任の所在をはっきりさせましょう。
vol.02では、展覧会を作る際の具体的な確認事項を解説します。
>>> vol.02
具体的な確認事項
>>> vol.03
おすすめの参考Webサイト、書籍
𡈽方 大|ひじかた だい
展覧会をつくる人。1989年愛知県生まれ。2011年金沢美術工芸大学美術科彫刻専攻卒業。
展覧会のディレクションやコーディネート、インストール、アーカイブなどに携わりながら、現在は国際芸術祭あいち2025のテクニカル・コーディネーターを務めつつ育児奮闘中。
主な活動としては、「タイムライン」(2019/京都大学総合博物館/京都/企画出品)や「向三軒両隣」(2017-/秋田/ディレクター)、「クロニクル、クロニクル!」(2016-2017/CCO/大阪/ディレクター)など。