presented by KACCO
京都市文化芸術総合相談窓口(KACCO)では、「文化芸術関係者こそ知っておきたい フリーランス新法」と題した講座を2024年9月25日に開催しました。ここでは、講座に参加できなかった方向けに、本講座の講師を務めた朝倉舞弁護士による「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)」の解説記事を掲載します。11月の施行前にぜひご一読ください。
文化芸術関係者こそ知っておきたい フリーランス新法のこと
執筆:朝倉 舞(弁護士/弁護士法人古家野法律事務所)
1 新しい法律が施行されます
令和6年11月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が施行されます。「フリーランス・事業者間取引適正化等法」と略されていますが、本記事ではさらに短く、「フリーランス新法」と称して、文化芸術関係者の方へ向けて、法律の全体像や、詳しく知りたい場合どこを見れば分かりやすいかなどの情報を記載したいと思います。
2 法律の目的
まずは本法律ができた背景として、いろいろな働き方の選択肢があり、フリーランスで働く方も増加している一方で、フリーランスと発注事業者との間の情報の格差や交渉力の差などから、いままでの法律制度ではフリーランスの労働・契約環境が不安定であることが問題視されていた、ということが挙げられます。特に文化芸術分野においてはその傾向は顕著といわれています。
そこで、フリーランス新法は、こういった問題の解消に向けて、フリーランスの方と発注事業者の間の
取引の適正化とフリーランスの方が
安心して働ける環境の整備を図ることを目的としています。
3 フリーランス新法が関係してくるのはどんな場合?
本法律が関係してくるのは、発注事業者から、フリーランスへの「業務委託」をする場合です。
フリーランス(法律上は「特定受託事業者」)や発注事業者(法律上は「特定業務委託事業者」、「業務委託事業者」)には、それぞれ本法律上の定義があります。例えばフリーランスをわかりやすく説明すると、業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないものということになります。ただ、「従業員」に短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含まれないと整理されており、パッと見ただけでは、実際にどうなのかがわかり難いところもあるので、まず、当事者に当たるかどうか、業務委託とは何か、が気になる方は、
内閣官房や公正取引委員会のHP上の
フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組のサイト などにあがっている「
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)パンフレット」の「法律上の定義」でご確認ください。
4 内容について
(1) 本法律では、業務委託をするにあたって、発注事業者側がしないといけないことが定められています。何をしないといけないかは、大きく①発注者側が従業員を使用しているか、②業務委託の期間、によって変わってきます。例えば、従業員を使用していてもしていなくても、発注者がフリーランスに業務委託する場合には、書面などによる取引条件の明示が必要になり、その明示事項も定められています。発注者が従業員を使用している場合はさらにプラスして、報酬支払期日の設定・期日内の支払いや募集条項の的確表示、ハラスメント対策に関する体制整備をしないといけないなど、業務委託期間に応じてしないといけないことや禁止事項が加わっていきます。
これらについての概要は、上記サイトや厚生労働省のHPにもある、
リーフレットの「法律の内容」に一覧化されています。より詳しくは前述パンフレットの「義務と禁止行為」に記載があります。
(2) 違反した場合
本法律に定められている義務に違反した場合、発注事業者は、行政(違反内容によって、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)の調査や、指導・助言、必要な措置をとることを勧告されたり、勧告に従わない場合には、命令・企業名公表、さらに命令に従わない場合罰金が科されること等が規定されています。
5 文化芸術関係者(フリーランス側)への影響
法律が施行されても、すぐには現場の対応に反映されないことも考えられます。ただ、フリーランス新法には、発注事業者が同法律に定める事項を守ってくれない場合、フリーランスは行政(違反事項に応じて公正取引委員会又は中小企業庁長官、厚生労働大臣)に対して「契約時に取引条件を明示してもらえなかった」など申し出て、適当な措置を取るべきことを求めることができるとされています。具体的な窓口は今後整備されるようですので、所管の申出先のHPなどをチェックしていただくのがよいでしょう。
また、フリーランス新法により、取引条件の明示義務が定められたことによって、発注事業者との合意内容が明らかになり、その明示された内容を守らなかった場合には、契約違反が明白になるということに繋がります。そして、フリーランスとしては、このような契約違反に対して債務不履行責任を問うといった対処をしていくことが考えられます。
本法律の施行は、フリーランスの方々にとって、取引上疑問が生じた場合やトラブルが生じた場合などに、これまでのような泣き寝入りではなく、専門家へ相談いただくなどの自身や作品を守る行動につながるきっかけにもなるのではないでしょうか。「
フリーランス・トラブル110番」といった相談窓口 も設けられていますので、そちらもチェックしてみてください。
6 文化芸術関係者(発注事業者側)として求められること
フリーランス新法は、発注事業者の方に向けた法律ともいえます。
発注事業者においては、これまでの業界の慣習を疑わずに踏襲されてきたこともあるかもしれませんが、本法律の施行を受けて、今一度、自社の対応が本法律に照らし適正なものであるか改めて見直していただくことが求められます。具体的な疑問については、厚生労働省や
公正取引委員会 のサイトにある
Q&Aに事例が挙げられています(例えば、「報酬の支払い期日を定める場合の起算日はどのように考えたらよいか」など)ので、そちらをご確認いただいたり、適宜専門家にご相談いただくなどしながら、取引内容の確認、社員への周知、社内フローやルールの整備・見直しなどを行ってください。
7 おわりに
本法律の施行により文化芸術を担うフリーランスの方を取り巻く環境が改善することは、発注事業者側にとっても、よい成果を得るためにプラスになると考えられます。本法律の目的が達成され、互いを尊重して取引が行われる中で、すばらしい作品が多く生み出され、日本の文化芸術がますます豊かになっていくことを期待しています。
【執筆】
朝倉 舞(弁護士/弁護士法人古家野法律事務所)
京都生まれ、京都育ち。芸術家の家族のもと、幼い頃より芸術に触れて育つ。大学卒業後、芸術およびデザイン分野での職務を経て、2010年弁護士登録。2016~2020年京都簡易裁判所非常勤裁判官、2021年より弁護士法人古家野法律事務所パートナー。
https://koyano-lpc.jp/lawyers/m-asakura/
KACCOをご活用ください
京都市文化芸術総合相談窓口(KACCO)は、京都市が設置した文化芸術に関する総合相談窓口です。相談を受けるだけではなく、創作の現場からできることを考え、文化芸術に関わる人のよりよい環境作りを目指しています。2022年度はフリーランスのアートマネージャー、舞台制作者、キュレーター、アーティスト、ミュージシャン等が相談員を担当しています。助成金・補助金申請にまつわるお悩みもお気軽にご相談ください。
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