「メビウスって抽象的、数学的概念で、数学者が発見したわけだから、八百屋のおっさんはこうは言わんぞってのが僕はあって。」
(林剛インタビューより, 2012)
犬と共に歩行視すること。それが本展覧会のテーマである。「犬」とは、林剛があみ出した「概念装置」であり、歩行視とは、犬との遭遇への戦術である。1960年代、幾何学的構成に人物フォルムを組み合わせた作品により新進画家として注目された林は、1970年より「いいわ」「犬」など単純な言葉を配置することで人間と世界との関わりを考察するダイナミックな作品を生み出してゆくことになる。詩や文学に於ける「読み・書く」対象としての言葉とは位相の異なる「視る・描く」という作業を基盤にした作品群は、70年代の概念芸術の先駆的な展開として、その後の現代美術の動向へ影響を与える一方で、それらの枠組みの中には収まりきらない、異質な問題意識を内包した異物、未知の世界から送り込まれた隕石のような存在として、今も我々に謎を投げかける力をもっている。本展覧会「犬と歩行視」part-1では、林剛の70年代の作品を中心に紹介すると共に、それらと触発関係にある他の作家の作品を展示することで、改めてその意義と可能性を探る。Part-2(2013年10月11日〜11月17日)に於いては、京都市美術館アンデパンダン展を舞台に、中塚裕子との共作で繰り広げられたCourt シリーズに始まる10年にわたる壮大なインスタレーション・プロジェクトの紹介や、それらと関連する多数の資料を展示する予定である。
主な展示内容
会場構成としては、林剛氏の看板作品を京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA内のエレベーター、階段、通路、屋外に星座のように配置し、「歩行」と「視」に関わる異質な時間・空間が立ち上がる経験を探ります。ギャラリー内展示スペースには、文字を使用した作品に加え、初期の絵画、映像作品「犬笑い」、タピストリーの「織り犬」、オブジェの「回転する犬」と参加作家の作品を対峙的に展示します。
展覧会関連イベント・トーク
「事故者と犬 — 絵画・言語・身体」
日時:2013年 3月30日(土)13:00〜(予定)
出演:林剛(美術家)、木村秀樹(美術家)、高橋悟(美術家)
建畠晢(詩人・美術批評・京都市立芸術大学学長)
特別ゲスト:(予定)森村泰昌(美術家)
河本信治(京都国立近代美術館特任学芸員)