静かな山村と忘れられた塔をめぐる寓話のような異世界の物語
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知らない時代の、遠い世界の話。
立ち入りを禁じられた山の奥にその塔はあるらしい。それはずいぶん昔からあるようなのだが詳しいことは村の誰もよく知らなかった。塔のあたりはいつも霧がかっているようで視界が悪く、塔の姿もよく見えないらしい。霧だけのせいじゃない、塔から煙が出ているのだと言う者もいるがそれも確かめられたわけではない。煙が塔を覆っているのか塔から煙が出ているのか、あるいはその両方なのか。何一つ確かなことが言えないのでふだん村人のあいだで塔のことが話題になることもないし、山の向こうに隠れて見えないので意識することもなかった。ただ、立ち入ってはいけないということだけだ。
しかしその日は確かに違った。山の近くに住む者が音を聞いたのだ。まだ未明のこと、その者は塔の方から聞こえる音で飛び起きたのだった。