家の前のひと気の無い道路に出て、遠くを見る。道路は古くて、ひびがある。
日が射している。
目を瞑って、立ち尽くす。風と遠くの生活の音が体に当たる。
目を開ける。空は大きく変わって、忽ち曇り、私の影は無くなっていた。
私は古い貸家に住んでいる。部屋の柱は、歴代の人々の脂や汗や、成長の記録が刻まれている。
私は、この柱の前歴を何一つ知らない。
只々、柱の得体の知れない迫力の前に、この文を書きながら、晒されている。
この世はとても複雑で、突飛で、大きくて、捉えようがない。そんな中での私はあまりにも小さくて、この対比は滑稽である。
私はこの滑稽さに、震えて、感動を催す。
思うに、私たちの感動の始まりは、こういった漫然と大きな事象と小さな自分に接点を見出せた時ではないだろうか。
人が何かを描く事は、今まで止まず続いて来た。
先人達が、それを感じ、描き残して来たとするならば、私もそれを紡ぐ一端でありたい。
田中秀介