作品紹介
伊藤正の作品は、一見したところ焼きものとは思えない、まるで風雨にさらされた岩肌のような質感をもっています。その表面には細かい砂粒や溶けた長石の光る粒をみることができます。有機的であり、古代を思わせるようでありながらも、全く未知のものの神秘性が感じられます。この独特のテクスチャーは、アトリエを構える岩手県内で作家みずからが掘り出した土を、釉薬を使用せずに焼き締めたあと、白土などを塗って本焼し、それを掻き落すという手法によって生まれます。自然、特に自分の手で集めた貝殻が重要なモチーフであり、そこには大学で自然地理学を学んだことが役に立っていると伊藤はいいますが、興味深いのは思わぬ角度で拡大したもの、巻貝の螺旋の内部など、フォルムが抽象化され、それがテクスチャーとぴったりと呼応していることです。掘り出した土はできる限りブレンドしない。土と徹底的に向き合うことによってつくられた作品は、土地、自然がもつ力と美しさ、そして時間を超えた何かを宿しているように思えます。
展覧会について
「銀河の渦の構造を、朽ちた貝殻に重ね合わせて、新しい形に出会える旅に出かけている」。本展のテーマについて伊藤はそう話します。つまり「海の雫」とは、宇宙の構造の一つの象徴としての貝殻を意味しているのです。同タイトルの新作は岩手県沿岸北部、久慈市の土を使用したもの。1,280℃の高温で素焼きし、カオリン(高陵石)を塗って本焼きした後にワイヤブラシでそれを掻き落としています。本展では新作約30点を展示いたします。この機会に是非ご高覧下さい。
オープニングレセプション:10月26日(金) 18:00〜20:00