風が渦を巻く。求心と遠心。
平安の終わりに立ち現れたという一人当千の女武者 巴の息遣いに耳を澄ます。
混沌、勾玉の光、花の造化の内なる力。
夢が走る。おどりが追う。
「花軍」という矛盾を生きて
今貂子+倚羅座が、この秋、とり上げる巴御前は、平安末期の伝説的な女武者であり、鎧兜に身を固め弓矢を背負う馬上の騎手の歌舞伎絵に見るように、通常のヒロインと異なっている。ジェンダー規範(女らしさ/男らしさ)から逸脱していて、だからこそ、いっそう、私たちの想像力をかき立てずにはおかない。「花軍(はないくさ)」というタイトルは、矛盾に満ちた現代社会にふさわしい。60~70年代のベトナム反戦時、銃口に花を差すフラワー・チルドレンが現れたように、花と軍(兵器組織)は相対立しあう。戦場にも似た現代社会で、私たちはいまもこの矛盾を日常的に生きているのではないだろうか。一種幽気ただよう歴史的建造物でもある五條會館歌舞練場にどんな「もののふ/もののけ」が現れるのか、興味をそそられる。 池内靖子(立命館大学教授)