6月11日[土]より開催する『蛇が歩く音:only the voice remained』は、2021年に京都府南丹市八木町に残る旧酒造を会場に開催した、守屋友樹(もりや・ゆうき)による展覧会「蛇が歩く音:walk with serpent」を、パルクの空間に(再)構成・(再)起動させるものです。
およそ10年前の偶然の体験を出発点に、現在までに幾度もリサーチを重ねて準備された本展は、『蛇』をモチーフとしながらも、いわゆる写真そのものを展示するのではなく、にまつわる様々な要素を横断的に展開するインスタレーションとなります。ここで守屋は「目の前に見えるものしか写せない」という写真の「解体」と並行して、物語化・象徴化された『蛇』を物質化・抽象化させることで、鑑賞者の内にイメージの「生成」を促し、「目には見えないけれど確かに見えている」という体験を発生させています。
また、旧酒造という特徴的な空間を手がかりに制作・展示された作品群を、異なる空間・時間に持ち込んで(再)展開させる本展では、かつて(2021年)の展覧会に取材して制作した記録映像・記録集をあわせてご覧いただけます。これにより、記録が、過去と現在・記録と記憶の曖昧な重なりに自立することで、鑑賞者の発見や想像を促し得ること、そこに作品や表現を「ひらきつづける」ことの可能性を体感いただけるのではないでしょうか。
【作家ステートメント】
「蛇が歩く音|only the voice remained」 凍結した諏訪湖の湖面が割れる音を聞いたことをきっかけに「蛇が歩く音」という作品を作り始めました。氷が割れているはずなのに目視できず、音だけが延々と響いている状況に、僕は心地よさと不気味さを感じました。また、目には見えないからこそ想像できることに興味を抱きました。以来、その音を聞こうと冬の湖を繰り返し訪ねています。あの音はどのようなものだったのか、どうして心に揺らぎを起こしたのか。刹那的で一度きりの体験のあとに、音の不在(記憶にしかない音)から湖や水辺が表象する伝承や実際に起きたことに関心が広がり、リサーチするようになりました。「かつて聞いた音」という既に失われてしまったものを始まりとして、その場所や歴史、話を聞いた人たちの声が、湖面が割れる音から外へ外へと僕を連れ出してくれるようでした。不在について考えることは水鏡を覗くようなもので、水面に写る自身とその背後に広がる景色を映し出すと思っています。もっと端的に言えば死から生を見返すようなものと言えるかもしれません。 去年の秋に南丹市八木町内にある元酒蔵でこの作品を発表をした際、副題を「walk with serpent」としていました。作品内に出てくる蛇という象徴が目には見えない形となって共に時間を経ていくことを暗示としてつけたものです。今回、目には見えないもの、聞くことができない音を想像してみた時、不在の周辺から物語るいくつもの声があることを意識していました。展示会場や八木町内で出会った人たちから蛇にまつわる話を聞き、パソコンで文字起こしした際、肉体から離れた声がモニターに表示されていることに気がつき 「only the voice remained」(声だけが残った) と変更しました。