このたび、同時代ギャラリーにて、京都を拠点に活動する吾郷佳奈の個展「をちこちのここのとこ」を開催いたします。
今回の展覧会では、「ここのところにおけるわたし」をテーマに、感染防止のために用いられるアクリル板やビニールなどの素材にした作品や、自身の日常の風景を背景に透明な膜を描く油彩作品を発表します。また、会期中は会場で鏡に映る会場の風景や通り過ぎる鑑賞者の輪郭線をトレースするライブドローイングも行います。自身とそのまわりにあるものの距離を見つめ続けてきた吾郷佳奈の新たな展開を御覧いただける機会となります。
____________
あちらこちらに、わたしたちを隔てる透けたもの。
今となっては街中にありふれたものになった透明な膜越しの風景は、透ける素材を好んで作品に取り入れてきた私にとって、とても目を奪われるものでした。その膜によって、あちらとこちらの境界が可視化されているようで、不思議に思うのです。
感染防止のためのパーテーションなどに透けるものを用いていることに、私は断絶へのささやかな抵抗を感じます。その壁は人々を隔てるものでもあるけれど、誰かが隣にいることが分かるものでもある。隣り合う繋がりをかろうじて繋ぎ止める命綱のようにも思います。
今回の展覧会では「ここのところにおけるわたし」を軸に、最近の風景として見慣れつつあるアクリル板やビニールを用いて、透明な境界で分けられた両面をひとつの平面にすることを試みます。また、日々を膜越しに捉えた絵画によって「わたし」を描きます。会期中には来場者や展覧会場といった「わたし以外」をモチーフに、ライブドローイングを行います。
複雑に絡み合った状況の輪郭線を、私の中のいくつかの視点による解釈で探ります。
あちこちの日常のなかの一つとしての、わたしの最近のところです。