この展覧会では、音楽学者の若尾裕とアーティストの岡島飛鳥のコラボレーションによって生まれた、ちょっと不思議なサウンド・インスタレーションを発表します。
著書「サスティナブル・ミュージック」をはじめ、文筆・翻訳・演奏活動を通して、現代における私たちにとっての音楽をもう一度身近なものとして捉え直そうと試みる若尾裕と、彫刻やドローイング、アートブックなどを通して、”言葉”や”意味”になる一歩手間でありながらも人と共有できるような感触に向けてイメージを形づくる岡島飛鳥。およそ40歳離れた二人のアーティストが、ある時は学者のように対話し、ある時は職人のように作り、またある時は子どものように悪ふざけをしながら、私たちをとりまく世界について考えます。
音楽や美術、哲学、力学、言葉、人、猫(?)など、様々な事象や現象が”いったりきたり”する様子に、ぜひご注目ください。
――「猫がいったりきたり」
ある振動が同じエネルギーで変わらない状況で持続されると、それは決まった高さの音となり安定する。音楽はその振動の究極の永続をセレブレイトする。
だがそのような安定がただ連続するなら、ビュリダンのろばのように困りはてるしかない*。
ライプニッツはものごとがまったく等しく、均衡していることはあり得ないと考えた。スピノザは人間には自由意思などなく、外の刺激によって動くと考えた。
猫ならただいったりきたりする。ろばもそうするべきだったのだ。
こうして均衡の破たんという平和が訪れ、ざわめきが起きる。
*ビュリダンのろば:完全に等距離の2か所に干し草を置かれたろばは、どっちを食べようかと止まったまま迷い続け、あげくのはてにそのまま飢え死にするという中世神学のお話。
若尾 裕 | Yu WAKAO
東京藝術大学修士課程(作曲科)修了。神戸大学名誉特任教授。現在は文筆、翻訳、音楽活動により、ポスト近代音楽のあり様を探求中。展覧会なるものは今回が初体験。近著に「サスティナブル・ミュージック」(アルテスパブリッシング)。
岡島飛鳥 | Asuka OKAJIMA
東京藝術大学美術学部(彫刻科)卒業。ドローイング、インスタレーション、アートブックにより作品制作を行っている。5年間で東京→千葉→プラハ→京都と移動が多い。主な個展に「Nightswimming」(sowale / Berlin)。