水谷勇夫(1921~2015)は戦後日本の前衛芸術運動で重要な役割を果たしたアーティストです。特に1960年代には「日本画」(本人は日本画という言葉を使わず膠絵と読んでいました)の画材を使った独自の絵画で国内外の注目を集め高い評価を得ました。絵画にとどまらず土方巽・大野一雄などの舞台美術を手掛けるなど幅広い活動を展開しました。今回は1950・60年代の作品を中心に展示します。
戦後前衛芸術運動が花開いた1960年代には次々と実験的な試みがなされ日本の現代美術にとって大きな変革期でもありました。
名古屋を拠点としていた水谷勇夫の元には美術のみならず、舞踏や演劇など様々なジャンルの芸術家が集まり切磋琢磨していました。
今回展示する作品はそんな時代の熱気のなかから生み出された作品です。美術の世界では一匹狼であった水谷勇夫は画壇や団体には所属せず、アトリエで一人で画面と格闘していました。しかし、その背景には、既成の美術の概念を打ち砕き、そのなかから新しい芸術、新しい思想、新しい時代を生み出そうとしていた志を同じくしていた多くの芸術家たちの存在があったのだと思います。
いつの時代にも、芸術家にはその時代の閉塞感を打ち破り、新しい価値を創造し新しい時代を切り拓くという使命があります。水谷勇夫の作品が単に過去の美術史の1ページに終わることなく、次の時代を切り拓くエネルギーとならんことを願っています。