─ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず
「流れ」と聞いて、私たちが心に描くものは、鴨長明『方丈記』の有名な冒頭の一文に代表されるような、常ならぬものではないでしょうか。この時の「河の流れ」は「時間の流れ」に置き換えることもできます。留まることのない水の特性と同様、誰もが「時」を止まらないものとして認識しています。しかし、今、ここに生きる証として、流れる河に矢を突き刺すように、自己を、そして世界を確認しようとする行為が、人を人として生かしているのではないでしょうか。
世界を成す四大元素、アジアでは五大元素の一つと言われる水は、地球上に生物が生まれ、また生きるために必要不可欠なものです。地球上に存在する「水」は、七つの海から蒸発し、雲となり、雨となって土壌を潤し、さらに「河の流れ」となって海に還るという循環をしています。
本展覧会は、この「水」をテーマに、フランス、ドイツ、コートジボワール、日本の四つの国出身の作家が、それぞれ水に対する思考や関わりを基に制作した作品を紹介します。生活に必要不可欠であるにも関わらず、私たちは生活することで水を汚染しなければならないのも事実です。また、時には災害として水の脅威をまざまざと見せつけられることも経験しています。日々、何気なく口にしていながら改めて考えることの少ない「水」、それが私たち人間と同様、アイデンティティを具えた存在であることを、それぞれの作家の作品を通して感受し、考察する機会となれば幸いです。