喫煙の習慣は16世紀後半以降に南蛮人(ポルトガル人)達により日本に伝えられたと言われている。長崎に伝わるや、途中の地方都市を飛び越えて、瞬く間に京都で大流行し、すぐに煙草が栽培され、国産の煙管が作られるようになった。初期の頃の煙管は大作りであったが、やがて携帯出来るように小型化し、煙管を収めるための煙草筒や刻み煙草を入れる袋と取り合わせて着物の帯にぶら下げて持ち歩くようになった。さらには腰元のお洒落を演出するため、手の込んだ意匠のものや高価な素材を用いたものも作られるようになり、こうした「提げ物」は男女を問わず、重要な装身具としての機能をはたすようになっていった。
しかし、何と言っても見ごたえのある煙草入が作られるようになるのは、明治以降である。江戸幕府が崩壊し、廃刀令が出されると、今まで武家社会をパトロンとして刀装具を作っていた刀装金工達が、生活の為に「提げ物」の金具を作り始めたのである。彼らの卓越した技術と感性は、素晴らしい作品を次々と生み出していった。
今展では、江戸後期から昭和初期にいたるまでの名工達が手掛けた粋な喫煙具をご観覧いただきたい。