舞台芸術

不思議な組み合わせ!? KUNIO08『椅子』ファイナルの稽古場から

2013.03.17

杉原邦生+岩下徹+細見佳代

若手演出家として注目を集めるKUNIOの杉原邦生さん。イヨネスコの名作「椅子」をファイナルと銘打って、京都で上演します。出演者の舞踏家・岩下徹さん(山海塾)、 細見佳代さんを交えお話をうかがいました。

-最初に、お互いの印象について、おうかがいしたいのですが。


杉原:僕がお二人と出会ったのは大学(京都造形芸術大学)で、岩下さんは先生で、細見さんは先輩です。岩下さんの第一印象は、オープンキャンパスのビデオ上映の時に森で即興ダンスをしている映像を見て、「あっやばいところに来ちゃったな」と(笑)。でも、逆に興味がわいて、結局受験しました。それはもう衝撃的でした。授業を受けるのが怖くて、当時の僕には宗教にしか見えなかったです。真っ白い服を着た人が森で暴れまわっているのを、周りでみんながじーっと観ているのが(笑)。僕は高校生の時にちょっとHIPHOPをやっていたので、ずっと手をブラブラしているだけとかで、「これがダンスか?」と。でも、岩下さんはものすごく物腰柔らかで、学生の時から「くにおちゃん」と呼んでくださって。今は、「杉原さん」ですけど(笑)。細見さんは、最初に存在を知ったのは太田省吾さんの授業発表公演でした。本人を目の前に失礼ですが、「化け物みたいな女優がいるなぁ」と。すごかったんですよ、芝居の圧力が。その時も老婆役でしたね。


細見:えっそうだっけ?


杉原:違いましたっけ?


細見:老婆って知らなかった。私いま初めて知りました(笑)


杉原:あれ、『風枕』(作・演出:太田省吾)って老婆ですよね??


細見:あんまりそんなこと考えてなかった(笑)




‐細見さんはいかがですか?


細見:岩下さんの授業を受けていたのですが、何か、その、“高僧”の修行みたいな・・・


一同:笑


岩下:やっぱり宗教ですね(笑)


細見:半期の授業で、全部同じことをされたんです。全部です。すごいなぁと。(笑)でもそういう哲学の人なんだなということがわかり、現実離れしたすっとした印象を持っていました。あと身体が軽やかな印象は持っていました。杉原さんは、後輩ですけど、大学で作品は何度か拝見していました。語弊があるかもしれませんが、大学にはわりと内向的な感性の人が多い中で、杉原さんはすごく外向きで明るく開かれているというイメージを持っていました。杉原さんの作品に出演されている方も抑えられていない自由に泳がされている感じがしていて、何か一緒にしませんかという話をしたときも、そこを信用していたというか、ちゃんと社会や観客と普通にコミットできる方という信頼感はありました。


岩下:杉原さんとの出会いは授業です。入学時は髪型もアフロで背も高いし、すごく目立っていたんですね。こんな風に演出家として頭角を現す方だとは正直思っていなかったです。ただ在学中にいろんな作品を作られてメキメキと頭角を現していった。さっき細見さんもおっしゃったけど、社会状況や対人交流にも、とにかく開いて、ちゃんと向き合っていくという視点が最初からありました。そこは今でも変わらないと思いますね。なかなかできる事じゃないですから。やはりどこか居心地のいい閉ざされた状況にいるのは楽です。私もそういうところがあるのですが、閉ざされた場所ではどうしても自己完結的な思考に陥りやすく、杉原さんはそこを否応なく越えざるを得ない契機をくださるのでそれは嬉しいなと思っています。細見さんに関しては、授業とおっしゃいましたが、私はその前の入試の時から。身体表現で受験をされています。


細見:そうです。勉強しなくていいかなと思って身体表現10分間というので受験しました。


岩下:それが、強烈だったんですよ。


細見:思い出したくもない。(笑)


岩下:その在りようが非常に強く、この方に自分が教員として教えることが何もないなと。こんな方が入ってくるとは思わなかったですからね。


一同:笑


岩下:あとは、太田省吾さんの『聞こえる、あなた?−fuga#3』でも突出されていました。今、一緒にこうやって出来て凄く嬉しいです。


 KUNIO08『椅子』AI・HALL(伊丹)2008年




‐『椅子』は初演が2008年の伊丹のAI・HALL(兵庫県伊丹市)ということですが、元々はどのようなきっかけでこの作品を選ばれたのでしょうか。


杉原:最初は細見さんと大学のカフェで話している時に出た話ですよね。雑談していて、「いつか何か一緒にやりたいって思っているんですけど、何かやりたいことはありますか」という話をして。そしたら「私、イヨネスコの『椅子』が好きで、岩下さんとやってみたい」って。


‐全部、そこで出た話なんですか。


細見:全部、その瞬間の思いつきだったんです。お互いその時は、実現すると思ってなくて。


杉原: 2008年にAI・HALLの”take a chance project”企画のお話をいただいたので、お二人に出演をお願いしました。『椅子』という作品には前から興味があって、僕がまだ学部生だった2004年ごろ、新国立劇場で香港のカンパニーがやっていた『椅子』を元にした『The Game/ザ・ゲーム』という作品をみて、すごく面白いと思ったんです。それがきっかけでイヨネスコ戯曲集を買ったりしました。


岩下:私は逆にイヨネスコの脚本も何も全く知りませんでした。杉原さんと細見さんからお話をうかがって、面白そうだとは思ったんです。ただ、私が勝手に想像していたのは、おそらくほとんど台詞がなくて、主に動きでやるんだろうなと。台本いただいて「あっ!」と。(笑)こんなに台詞があるのか、覚えられるのかと正直・・・・・(笑)


細見:かなりの量ですし。(笑)


杉原:笑


岩下:台詞のある作品は、正確に言うと初めてではないですが、本格的にこれぐらいの台詞量の芝居、というのはこれまでやったことがなかった。でももうお受けした後だったので、やるしかないなと。とにかく一生懸命にやろうと思って、やりました。





‐日頃の活動と、今回の『椅子』は、どのようなつながりを持っていると思われますか。


杉原:初演から5年かかってますからね。


岩下:その間で変化した事は、歳をとったということはありますが、それ以外にはどうしても3・11のことは外して考えることはできないです。そのことがこの作品にどう反映されるかははっきりとは言えないのですが、「生きている」ということと「死ぬ」ということ、それが自分の中で近づいて、同一平面上にあるような気がしています。初演よりも(老人が)「死」に向かって生き急いでいるという感覚が自分の中で理解できてきたように思います。


杉原:これまでの舞台における活動の中で、この作品のポジションはどのようなものですか。


岩下:演劇だと脚本の中に書かれていることの中で生きていくわけですが、フィクションといってもやはりそこを生きている。自分が普段やっている即興ダンスともまた違ったあり方ですが、「生きている」時間がある。その「生きている」中に、「死」をどうやって迎えるのか、感じるのか、向き合うのか、ということです。


細見:私はもともと、高齢の方の身体に興味があって、普段もシニア劇団の指導をアトリエ劇研でやっていたり、デイサービスセンターで話を聞き取るボランティアをやったりしています。単純に高齢の方の身体の中には歴史がいっぱい詰まっています。最初にこの『椅子』の戯曲が面白いと思った理由も、歳をとっていろんなことが蓄えられてきて、それを全部ぶちまけられるというか、いろんな感覚が外にあふれ出て、最後にそれはどうなったのか、という話だったからです。初演の時は、それを外側から見ている感じだったのですが、俳優として外側からではなく内側からどうやって生きられるのかな、ということを一生懸命手探り状態でやっています。老婆の役ですが、私でも共感できるような感覚、普遍的な人間の感覚というものがちゃんと描かれているということが、演じるたびにわかってきました。何か自分の内臓にも関係があるというか、そこをどうやって少しずつ捕まえられるかということを課題に今もやっています。


KUNIO09『エンジェルス・イン・アメリカ』[KYOTO EXPERIMENT 2011]京都芸術センター



杉原:僕は普段、比較的骨太なドラマをやることが多いんです。木ノ下歌舞伎の歌舞伎演目もそうだし、『エンジェルス・イン・アメリカ』(トニー・クシュナー作、KYOTO EXPERIEMNT2011にて上演)とか。そういうものが続いたとき、逆にこの『椅子』とか『更地』(太田省吾作、KYOTO EXPERIEMNT2012にて上演)みたいな戯曲として抽象度の高いものを選んでいる気がします。どちらも夫婦の話で、どちらも基本が二人芝居。ただ、『椅子』の初演の時は作品を立ち上げることに精一杯で、じゃあこの作品で僕が何を言いたいのか、ということまで踏み込む手前で終わってしまった感じがしていたんです。再演では、そのことに取り組みたいと思っていました。人間は死ぬときは誰でも孤独だけれど、それまでいろんなコミュニケーションの中で生きています。そのコミュニケーションの中で最も密接で最小単位のものが夫婦だと思っていて、この夫婦という関係性において芝居を作ることが、『更地』を経てから、自分にとっていろんな意味があると感じているんです。僕は自分の作品を観て、お客さんにハッピーを伝染させるということをしたいといつも思っていて、お客さんがポジティブでハッピーな気持ちになって帰ってほしい。二人芝居になると、そのことに対してすごく集中できて、自分の中で視点が絞られるんです。関係性の中でどこにハッピーを見いだすかということに。だから『椅子』は、自分としてもやりたいことがガツンと出せている作品だと思っています。


細見:演劇ではなくダンスの方と一緒にやるというのは全然アプローチの仕方が違うので、何か凝り固まったことから解放されるというか、刺激がいただけるのでありがたいです。どうしても自分の中で固まっていることはなかなか壊せないので。


岩下:私もそうです。うろたえることもあるんですが。


一同:笑



‐杉原さんが、ハッピーやポジティブをテーマにされるようになったきっかけがあるんでしょうか。


杉原:2010年頃までは、どこか自分で恰好をつけていたというか、何かつっぱっていたところがあって。でも2010年に団塊の世代の方限定でやったダンスワークショップ公演があって、その方たちとHIPHOPを踊ったりしたんです。舞台芸術に直接的に関わったことのない方たちと作品を作ることになった時に、自分がこれまで使ってきた演劇言語が全く通じなかった。その時に、自分が今までやってきたことやこれからやろうとしていることを、もう一回自分で噛み砕いて、全部わかりやすい言葉で伝えていかなくちゃならない。「あ、オレ凄く狭い世界で勝負しようとしてたな」と思って、そこから色んな事が吹っ切れました。恰好つけるとかどうでもいい、自分のことが出ている作品じゃないとお客さんは感動しないし、楽しんでくれない、ということを痛感して。そこから自分に嘘をつかなくなりましたね。稽古場でもインタビューとかでも思ったことしか言わない。例えば稽古場で自分が悩んでいたら、素直に俳優に悩んでいると伝えるし、わからなかったらわからないって伝えた方が良いんだなって、現場にとってプラスになるかどうかはその時々ですけど、少なくともマイナスにはならないってそこでわかったから。今は全然ストレスもないです。もちろん大変なこともたくさんあるけど、心的なストレスは全くなく出来るようになったので、どんどん新しいことに挑戦していきたいなと思います。






‐いいバランスで、いいチームワークですね。楽しみです。今後の展望を。


杉原:今回の作品が今の自分のできる最高のものになってほしいし、お二人と一緒に作れたことがとても貴重だったので、それが次の何かにつなげていけたらいいなと思っています。アーティストとしては、世界をもっと大きく広げていけるようにいろんなことに挑戦したという欲望を持っています。



■ 取材日:2013年3月2日(土) ■ 取材場所:京都芸術センター制作室10にて

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