ふるさとや郷土愛ってあるんだろうか?
第1回目となる座談会は、大見新村プロジェクトに関わる関東出身者を集めて行いました。京都大学入学時に京都に移り住んだ山口さんは、大学院で建築構造学を学び、現在立命館大学の研究室に所属し、研究を続けています。大貫さんは武蔵野美術大学卒業後、京都のデザイン事務所に就職。京都はもうすぐ3年目。本間は東京の大学院で建築史を終了し昨年の春に移住、建築集団RADに所属する京都2年目。山田は武蔵野美術大学で非常勤講師などに従事した後に京都に移住。現在は編集者として美術媒体の編集などを行う。
第1回座談会風景
「ないですよね。郷土愛って」
山田:みんなはどんなところで生まれ育ちましたか?
山口:僕は新興住宅地に住んでました。1960年代くらいに団地をつくり出したところで、それこそ「あこがれの生活」「モダンライフ」とかいう時代ですよね。そういう地域の戸建て住宅に住んでました。
山田:駅で言うとどこになるんですか?
山口:最寄りの駅で言うと小田急線の新百合ケ丘になります。おじいちゃんが昔そこに土地を買ったんですよ。
山田:東京にいたころは何してたんですか?
山口:高校生とかですか? 普通に通ってましたよ。
山田:それはわかりますよ。
山口:特に面白いことはなかったんですが、中高一貫の進学校の男子校に通ってましたよ。一時間ぐらい満員電車に揺られて。
大貫:なんでそこに行ったんですか。
山口:神奈川の高校の中のトップスリーに入るような進学校で、受験勉強して、それで入りました。
大貫:中学校からですか?
山口:そう。小学校五年生くらいから塾に通ってました。
山田:受験ね。あるよね。
大貫:すごい、いやそうな顔してますね。
山口:あれ、ほんと良かったのかなって思いますよ。子供時代をそういう風にすごしてほんとに良かったのかなーって。
皮なめし連続ワークショップを主催する山口さん(Bonjour! 現代文明 提供)
山田:京都はどうですか?
山口:京都の方がしっくりきますね。
山田:新百合ケ丘にはしっくりこない?
山口:こないですね。あんまり郷土愛がないのかな。
大貫:あぁーでもないですよね。郷土愛って。
山口:でも最近友人が東京で禅寺丸柿(ぜんじまるがき)を育てているらしくて。それが実家の近くなんですけど、王禅寺ってお寺があって、そこで昔つくられたのが王禅寺丸柿っていって、日本最古の甘柿らしいんですよ。それを友人がつくってるってFacebookで載せていて、なんかそういうの見ると王禅寺だぜ、みたいに思うっていうか。郷土愛じゃないんだけど、うれしくなりますよね。
山田:東京にいたときに食べてた訳ではないんですよね?
山口:食べてた訳じゃないけど、そういうのがあるっていうのは聞いたことがあったんだよ。新興住宅地のイメージしかなかったんだけど、言われてみればそういうのもあったよなって思い出した感じかな。
山田:大貫さんはどこですか?
大貫:わたしは府中です。武蔵小金井と国分寺の間くらい。府中市の一番端ですね。
山口:あのへんはまだ自然がいっぱいありますよね。
大貫:自然いっぱいありますよ。浅間山(せんげんやま)っていう山があります。山っていっても5分くらいで頂上に行ける山なんですけど。
山口:いわゆる武蔵野ですよね?
大貫:武蔵野ですね。
山口:いつ京都に来たんですか。
大貫:大学卒業してすぐなんで、京都は3年たったかなくらいですね。
山田:京都はどうですか。
大貫:うーん。最近わかんなくなってきたんですよね。いままでは京都楽しかったんですけど。
一同:どういうこと?
大貫:なんだろう。ちょっとよくわかんないです。
山田:そんな感じがするってこと?
大貫:そんな気もします。
「生まれた家がコインパーキングになってた」
山田:僕の場合かもしれないんだけど。もともと生まれ育ったところに対する思い入れとか感覚がないから、いまいち郷土に関しての感覚がなくて。根づいている感っていうのを昔から持ってなくて。だから持っている人々に会うと。
山口:地元があるとかそういう人のこと?
山田:そう、そういう人と会うと自分とは違うなと思うっていうか。
山口:それはありますね。
山田:そしてそういうもの? 郷土愛のようなものを持つことがこれから先にできるのだろうか? っていう疑問はあります。
山口:でも郷土って、子供のときの一緒に育った仲間とかに結びついているじゃないですか。だからもう今からは無理なんじゃないですか?
山田:なるほど。たしかにそれは人を媒介にすれば無理ですよ。でもそういうのじゃなくても、たとえば結婚したとか、子供ができたというときに。
山口:骨を埋める。
山田:そうそう。
山口:骨を埋めるという意味ではずっと京都でもいいかなと思います。京都以外では特に嫌だなってこともないんですけどね。
大貫:わたしもそうですよ。
山田:もう少しこの土地を守りたいとか。そういう気持ちですよ。だから山口さんはおじいちゃんが土地に根づいたんですよね。そこを引き継ごうとか守ろうとか思わないんですか?
山口:ないですね。そもそもそういう土地ではないと言うか。新興住宅地でここの場所を守ろうとはなかなか思わないんじゃないですかね。
山田:なるほど。僕は育った家っていうか、市内で2回くらい引っ越しをしたんだけど、生まれた家がコインパーキングになってたんですよね。何だろう、この不思議な感じって思って。
大貫:うんうん。すごいわかります。小学校のときにアパートに住んでいたんですけど、アポートだから思い入れとかなくて。だけどそこが駐車場になったんですよ。なんか。なんともいえない気持ちになりました。
山口:失った感じですか。
大貫:ちょっと悲しかったんですよね。思い出もなくなってしまたような。もうまっさらの状態になったので、悲しい気持ちにはなりました。
本間:僕は東京の町田で育ったんだけど、見渡す限り団地のような地域で育って、その後マンションに引っ越したんだけど、そこも全然郷土や文化や伝統がまったくない地域で。お祭りも小学校とか、青年会の出し物があるくらいで、神社の祭りとかないんですよ。
一同:ないねぇ。
本間:母方のばあちゃんちが、静岡のものすごい田舎で、まわりになにもなくて移動販売車が来るようなところで、家も雰囲気があって、おばあちゃんの家に行くのが楽しみだったんです。そういうところで暮らしているというあこがれはあった。そういう生活はいいなと思っていて。自分が住んでいたところが新興住宅地だったので、尚更そういう暮らしや環境が新鮮に感じたのかなと。
山田:そこは住みたいと思う?
本間:うーん。365日住めって言われたら、住めないかな。夏だけ住むとかだったら、最高のロケーションですね。
山田:別荘って言うことだ。
本間:そうですね。
山田:その考え方がもう都市部の人の考え方だよね。
本間:そうですね。ばあちゃんは畑やってますけど、僕自身はいまのところ畑をやるつもりもないので。だから古い家をうまく修正して、ネット環境を整えて景色のいいところで仕事しながら過ごすでしょうね。
「地域のおっさんとかにもいろいろ学べる方がいいんじゃないかなと」
山田:もし自分に家族や子供ができたときに、子供には郷土やふるさとは感じてほしいと思う?
山口:難しいですね。わかんないです。
本間:大学のとき、お盆の時期とかに、必ず地元に帰る友人が何人かいたんですよ。それがうらやましかったですね。1年に何回か、どうしても帰らないといけない場所があるっていうのはいいなと思います。都会で暮らしていても、そういう地域で暮らしたいなとは思います。
山口:地域のコミュニティってことですね。
本間:そうですね。お祭りとかですかね。普段は都会などに働きに出ているんだけど、そのときだけは祭りのために帰ってくるとか、そういうのはいいですよね。そういう地域はこれからも残っていくんじゃないかなと。そういう地域で子供を育てるのはありだなー。
山口:1つ思うのは、子供のころに、親と学校だけしか話を聞く場所がないのは、人格形成に与える影響として良くないなーと思う。なんかいろんな人の話をきけるといいなと。おじいちゃんおばあちゃんだけじゃなくて、地域のおっさんとかにもいろいろ学べる方がいいんじゃないかな。
山田:たしかにそれはそうかも。
本間:友達の親ですらあんまり話さなかったな。
山田:うちもうちも。
本間:そうすると京都はどうですか?
山田:どうかな。
本間:この4人はとくに京都にこだわりはないかなと。
大貫:どっちでもいいかな。
山田:悪いとこじゃないよね。ここと思える場所が特にないんだよね。東京に帰ってもいいし、帰らなくてもいいし。京都いてもいいし、京都出てもいいし。
本間:僕もそう思います。
山田:ここと思える場所が自発的にできるのだろうかという疑問はあるよね。
本間:そうですよね。
山口:そんなの自発的につくらなくてもいいんじゃないですか。
山田:まぁーそうなんですよね。だから自分じゃなくて子供とかにはどうしたいかなって思うっていうか
山口:子供を育てるという意味では、東京よりは京都の方がいいな。
本間:京都に限ったことではないですよね。地方のそういうコミュニティが強い地域の方がいいよね。
「住むという概念を拡張することが重要かなって思ってます」
本間:大見ってどういう感覚で行ってますか?
山田:着るものも違うし、スイッチを切り替えているかな。
山口:僕も切り替えてますよ。
山田:山口さんでも?
本間:どんな風に切り替えてるんですか?
山口:襟があるのを着たり。
本間:大見って微妙に遠いから、その距離感が大事かなって。ふらっと行けるところとは違うモードの切り替え方というか。必ず電波の入らない林道を通らないといけないし。山口さんは自転車で行っているから、もっと違うモードの切り替え方なのかもしれないですね。大貫さんは、はじめてイベントで大見に行ったときはどういう意識だったの?
大貫:何かを想像して行くことはなかったけど、いつもと変わらぬ意識で行きました。
山田:山口さんは大見に住むんですか?
山口:うーんと、住むという概念を拡張することが重要かなって思ってます。そういう意味では、郷土みたいなことをどう感じるかというか、そこに自分の責任っていうのかな、そういうものを感じるっていうか、コミットの意味を問い直していく。
本間:何に対してコミットするかですよね。
山口:場所ですよ。
本間:なるほど。他の地域だったらなコミュニティがあるじゃないですか。だけど大見はコミュニティが残ってないから、どういうところに対してコミットするかは人によるかなって。
大貫:近所付き合いはないけど、大見に来る人って多いし、新しい感覚の人が多いから、そういう中でコミュニケーションは生まれそうですよね。
本間:大見新村に来る人たちかぁ。それはあるよね。
山田:僕はもう少し感覚的なんだけど、不思議な縁とかタイミングを感じるときがあって、なんでいま僕は大見にたずさわっているんだろうとふと感じるときがあるんですよ。美山とかもっといいところいっぱいあるのに。
本間:なるほどね。
山田:そう。なんかたどり着いてしまったこと、そのただ一点のみで自分の魂をそこに結びつけられるかもしれないと思うときもあって。それはだから人との関わりとか土地に対してよりは、そういうことだけで郷土にできるんじゃないかなーとか思う。
「3年間何も起きていないようで、活動が動いているってのが面白いですよね」
山田:大貫さんは大見のことはどう思っているの?
大貫:大見新村プロジェクト自体に興味があるんですよ。新しいことが生まれる可能性を感じていて。そこにすごくわくわくするし、わたしも参加したい。これからも付き合っていけたらいいと思っていて、そこにすごく興味がある。
DESIGNEAST 05 CAMP in Kyotoで会場の演出を担当した大貫さん(Takuya Matsumi撮影)
山田:その新しいものっていうのは、どういうものなんだろう?
大貫:知らないだけかもしれないけど、いままでにないものがある、、、、
山口:うん、たぶんみんな思ってるんじゃないですか。なんか新しいものがあるんじゃないか。
本間:すごいよくわかるし、そうなんだけど、プロジェクトが可能性を秘めているということだけをちらつかせているだけ、みたいな感じもあって、一向にその先に進まないというようなところもあるような気がしていて、いまだに藤井さんが村に住み始めたところから物語を語るんだけど、それはもう5年も前の話で、プロジェクトが始まって3年、その3年に関してはまだちゃんとまとめきれてないとは思いますね。それが形になってなくてもいいと思うんですよ。
プロジェクト発起人の川勝真一(左)、藤井康裕(右)
藤井さんはかつて大見に暮らしていた藤井家の子孫。有機農業で就農するために5年前に単身大見村にIターン。現在大見に暮らしながら有機農家として生計を立てている現プロジェクト代表。
山口:3年間何も起きていないようで、活動が動いているってのが面白いですよね。
本間:本当そうですよね。
山口:だからつくったものじゃないんですよね。
山田:思うんですよね。だからそれは先に進まない議論を実はみんなが求めてるっているか、人と人とのつながりを求めてるんじゃないかって。
山口:社交クラブみたいな。
山田:そう、そのほうが求めている場なのかなとも思ったりする。自分はあるなと。
本間:次は学生のグループに質問を投げたいんだけど、学生に聞きたいこととか、どうですか。
山口:バトンを渡すってことですね。
本間:まず、授業もバイトもサークルもあって忙しいはずの学生の立場で、なんで大見新村みたいなところに来るのか聞きたいです。
大貫:なんか新しいアイデアっていうか、そういうのを聞きたいです。自由な発想で大見新村でやったら面白いとかそういうアイデアを提案してもらうのはどうかな。
山口:いいんじゃないですかね。
■取材:2014年10月30日 京町家のBar離れにて