美術

欧州文化首都とアートセンターの可能性

2013.10.28

エッセンPACT Zollvereinとマルセイユmontévidéoから

9月末から10月にかけてドイツの西部のエッセンと、フランス南部のマルセイユを訪れた。京都芸術センターが、2都市のアートセンターと共同し、間もなく始める新しいプロジェクト「フェルトシュテルケ・インターナショナル(Feldstärke International)」の打合せのためだが、ここではそれぞれの都市の状況とアートセンターを紹介したい。


エッセンは19世紀中頃から炭鉱として栄えた街で、操業停止になった1986年以降、芸術の街として再生を遂げている。


その中でも、パクト・ツォルフェライン(PACT Zollverein)は世界遺産にも認定されているエッセンの炭鉱遺構の一部をリノベーションした劇場型のアートセンター。最盛期には3,000人もいたと言われる鉱夫たちのシャワー施設だった建物を再活用し、コンテンポラリー・アートを中心としたスタジオと劇場からなる複合施設として様々な事業を展開している。1階には、スタジオやオフィスが並び、2階には大小2つの劇場がある。実験的な舞台芸術作品の発表やこども向けのプログラム等が行われているのと同時に、多数のレジデントアーティストが、活動を行っている。スタッフは、アーティスティック・ディレクター1名とマネージング・ディレクター1名、プログラム・マネージャーが4名、広報等2名、テクニカルスタッフが3名、その他施設管理等を含め全部で15名とのことだった。


パクト・ツォルフェラインの外観



 


ツォルフェライン自体は、広大な敷地を有し、パクト以外にもデザインミュージアムや、イリヤ&エミリア・カバコフのインスタレーションの展示施設、炭鉱博物館などもある。敷地内の様々な古い建造物は、バウハウスの影響を強く受けており、力強く非常に美しい。現在も手つかずの状態で残されている建物もいくつかあった。ちなみに、SANAAが設計したデザイン学校も同じ敷地内に2006年に建設されている。


 
また夏から秋にかけて、エッセンを含むルール地方では、ルール・トリエンナーレ(Ruhrtriennale,2013年8月23日-10月6日,Kultur Ruhr GmbH主催)というフェスティバルが毎年開催されている。(トリエンナーレなのに、毎年開催されているのは、ディレクターが3年おきに交代になるものをトリエンナーレと呼んでいるからだそうだ。)PACTもパートナー組織のひとつで、フェスティバル期間中には、いくつかのイベントを行っている。ルール・トリエンナーレ自体は、規模も大きく、ツォルフェアアイン以外にも、たくさんの産業遺構等を展示会場、公演会場として活用していた。


Heiner Goebbels "Stifters Dinge" インスタレーション(ルール・トリエンナーレ2013)


 
 


さらに、今年はルール・トリエンナーレの期間にあわせて、エムシャークンスト(EMSCHER KUNST 2013,2013年6月22日-10月6日, EMSCHERGENOSSENSCHAFT【水管理組合】等が主催)という屋外美術展も行われていた。エッセンを東西に平行に流れる二本の川沿いの広大な地域に、魅力的でダイナミックな作品が展示されている。アイ・ウェイウェイ(Ai Weiwei)は、上海ガニなどをプリントした10種のデザインの異なるテントを1000個作成し、選ばれた場所にテントを張り泊まることができるというプロジェクトを行っていた。ダニエル・ビュレンヌ(Daniel Buren)など、日本でもお馴染みのアーティストによるインスタレーションも見ることができる。




Christo "BIG AIR PACKAGE”, 2013, Gasometer Oberhausen



  


今回、ドイツで見た作品の中でもっとも印象的だったのは、ガソメーター・オーバーハウゼン(Gasometer Oberhausen)というヨーロッパで当時最も巨大であったガスタンクで行われたクリスト(Christo)の新しいインスタレーション” BIG AIR PACKAGE”(展示期間:2013年3月16日-12月30日)。ガソメーター・オーバーハウゼンでは、1年から2年に1本というペースで展覧会を行っており、これまでにも、ビル・ビオラ(Bill Viola)等の個展も行っていて、クリストの個展は1999年以来2度目となる。巨大なガスタンクの内部に、超巨大な白いバルーンが設置されており、観客は内部に入ることができる。そのあまりの巨大さに言葉を失い、息をのむほどの真っ白な空間の中では、静粛な心持ちになった。またガスタンクの頂上にも外部エレベーターで登ることができ、ドイツを越えてオランダまで見渡せる眺望を楽しむことができる。この付近には山と呼べるものはなく小さな丘がある程度で、どこまでもフラットで美しい風景の中に、いくつか稼働中の原子力発電所を見つけることができた。




ガソメーター・オーバーハウゼンの屋上から



 


エッセンがここまで文化的な事業に取り組むにはそれ相応の理由がある。炭鉱という経済的にも心情的にも市民にとってなくてはならなかったものが終焉を迎えた時、都市が生き残る道として選んだのが文化による再生という物語だった。ただ、PACTのプログラム・マネージャーであるマーリース・フィルホファー(Marlies PILLHOFER)氏によると、「これらの芸術活動により若い世代を中心に大きな雇用が生まれているが、もともと炭鉱で働いてきた世代と、新しくエッセンに移ってきた若い世代は分離した状態にある」とのことだった。欧州文化首都であった2010年には、交通機関等も充実し、外部からの観光客にも柔軟に対応できていたが、現在ではそれらをまかなう予算はなく、同じようにフェスティバルは開催され続けてはいるが、以前に比べ格段に不便な状況にあることにも言及していた。




パクト・ツォルフェアアインの劇場



 


その後、PACTのスタッフと共に、マルセイユに移動した。




montévidéoの外観



 


マルセイユは、2013年の欧州文化首都に選ばれたばかりで、活気があり、まだまだ新しいプロジェクトや施設のオープン等が目白押しといった雰囲気が漂っている。

 
町の中心部にある文学や音楽を中心としたアートセンターが、montévidéo(モンテビデオ)。こちらも古い建物である元壁紙工場を再活用した施設であった。到着したのが夜で、ちょうど公演が終わったところだったこともあり、入口に位置する素敵なテラスでたくさんの人たちが飲み物片手に談笑していた。建物の入り口を入るとすぐ中央のスペースはカフェテリアで、1階と2階に大小の劇場スペースが一つずつある。更に別棟で音楽スタジオやレジデンス・スペースがあり、常時何人かのアーティストが滞在しているとのことだった。montévidéoは、行政主導ではなく、アーティスト・ランの施設としてスタートし、現在は公的な資金援助も得て活動をしている。運営は主に、作家、演出家、舞台美術家のユベール・コラス(Hubert Colas)と、現代音楽のプログラムの企画等を行い、録音やCD制作等も手掛けるジャン‐マルク・モンテラ(Jean-Marc Montera)が中心となっているとのことだった。また、ユベール・コラス氏が創設した国際芸術祭actoral(アクトラル)は、2001年から毎年秋に行われ、13回目となる今年は9月24日から10月13日の期間中開催された。montévidéoの他、マルセイユ市内の他の劇場やオルタナティヴスペースが会場となり、演劇や音楽、レクチャーやビジュアルアートも含め50ほどのプログラムが行われていた。




montévidéo内のカフェテリア



 


マルセイユは、南仏特有の光り輝く太陽、青く澄んだ地中海と白い壁の家々といった魅力にあふれる街である一方、近年では観光客には「スリに気をつけて」が最初のあいさつになるほど、強盗や薬物等の犯罪が増加している。そんな中、今年欧州文化首都に選ばれたことで文化面に多額の予算が投入され、新しい美術館や博物館のオープンが続いている。今年オープンしたばかりの地中海を望むマルセイユ湾の城塞と真新しい建物で構成されるヨーロッパ・地中海文明博物館(Musée des civilisations de l'Europe et de la Méditerranée 【MuCEM】)は、新たな観光スポットとしても人気を集めているようだった。

 
欧州文化首都は、1985年にアテネから始まり、EUが毎年ある都市を選び、文化的な予算をつけ集中的に事業を行っている。エッセン(2010年)もマルセイユ(2013年)も、華々しい歴史と魅力にあふれているが、同時に大きな問題を抱える都市でもある。欧州文化首都には、雇用や民族、治安等さまざまな問題を抱える都市に予算を投入し、文化によってイメージアップを図るという意図も存在する。そこでは、諸問題の根底に横たわる多様性を都市の活力へと変換するために、文化が体よく利用されているという感はぬぐえない。ただ、現場で文化に関わる人たちは、その状況をたくましく受け入れ、うまく活用しようとしていることが強く感じられた。歴史的な厚みがあり、地方都市であるからこその矜持を持ち、文化を下地に都市の魅力を引き出そうとする姿には京都に共通するものがあるように感じた。

 
折しも今年から、日本、韓国、中国が連携し「東アジア文化都市」という欧州文化首都をモデルにした新しい事業が始まった。これらの取組によって、アジアの、そして世界の文化的なパラダイムがどれほど変化するのか注目したい。





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