美術

アーティスト・イン・レジデンスの現場から

2013.10.08

Art Space 寄す処/山懐庵

近年大きな広がりを見せるアーティスト・イン・レジデンス。刺激を求めて、制作環境を求めて、はたまた異文化との出会いを求めて、多くのアーティストがアーティスト・イン・レジデンスを利用するようになってきました。でもそもそもアーティストといってもさまざま。であればその受け皿となるアーティスト・イン・レジデンスも多様なあり方が求められているはず。実は京都には多くのアーティスト・イン・レジデンス施設があり、様々な国、地域からのアーティストが滞在制作を行っています。公的機関が運営するヴィラ九条山(フランス政府)やヴィラ鴨川(ドイツ政府)、京都芸術センター(京都市)などがその代表的存在ですが、近年、小規模なアーティスト・イン・レジデンス(マイクロレジデンスとも呼ばれる)も増えてきています。NPOやアーティストにより運営されるそれらのレジデンスは、そこならではの特色やコンセプト、運営者の個性が反映され、アーティストにとって貴重な芸術活動の場になっています。最近、京都に開設された二つのアーティスト・イン・レジデンスを取材しました。

≪Art Space 寄す処/沼沢忠吉≫


―どのような経緯でレジデンスを立ち上げることになったのですか。


自分と芸術の関わりは高校生の時に美術部で油絵を描いていたくらいで、前職は警察官で茨城県警に26年間勤めました。強盗やレイプ事件などを担当していて精神的に厳しい仕事で50歳になったら人生を見直したいと考えるようになりました。そんな時に地元のギャラリストと知り合いになって、やっぱり芸術っていいなって思って。ギャラリー運営を考えて京都に通っていろいろ物件を見ていた、そんなときに震災がありました。私は福島の南相馬市の出身で、両親はいわき市に住んでいたのですが、津波被害の現場は人がいなくて瓦礫の山で…本気で泣きました。被災地はモノトーンの世界なんですよね。強烈に印象に残っているのが、幼稚園くらいの女の子がどこからか真っ赤なゴムボールを見つけてきて、みんなに「きれいでしょ」ってニコニコして見せて回ってるんです。みんな自然に笑顔になっていく。その時に、「ああ、きれいなものに触れることが一番人を笑顔にできるんだ」って思い、芸術に関わる仕事をしようと決断するきっかけになりました。ただ、ギャラリーはお金のやり取りがリアルで自分向きじゃないなと思い直し、昔、絵を描いていた時に自分のアトリエが欲しかったこと思い出しました。長期滞在型のアトリエがあったらいいな、そこで発表もできたら面白いのに、と思ってネットで探していたら、それをアーティスト・イン・レジデンスというんだ、と知りました。



―やりたいことを考えていたらそれがアーティスト・イン・レジデンスだったんですね。今はプレオープンとしてニューヨークからドナルド・キャメロン(Donald Cameron)さんが滞在されていますが、今後も海外の方を対象にしていくのでしょうか。


いえ、国内外問わず受け入れていきたいです。滞在者はアーティストに限定していません。大きく言えば表現者、もの書きでも音楽家でもキュレーターやプロデューサーでもOKです。これからは宣伝をどうしていくかを考えていかなきゃいけないと思っています。私も人生をかけて、退職金を全部つぎ込んでいるので失敗できませんし(笑)。


アトリエの様子


―レジデンスを開設するにあたって、援助や助成金をうけたのですか?


いえ、掛け合ったのですが、その分野での経験がないという理由で全部断られました。でも自分の夢は大きくてここ(京都)だけではなく、海外にも拠点をつくることです。カナダやパリに住んでいる友達から、運営できる内容を持ってきてくれたら、場所を提供すると言われてるんです。相互にアーティストが行ったり来たりできる環境をつくりたいです。まだまだ素人なのでどう運営していくかが一番難しいですけどね。でも想いは必ず届くって信じています。


―ここはバーも併設されてるんですよね。


8月27日にオープンしました。お客さんは今のところ合計で…10人ですね。


―(笑)でもアーティストもバーのお客さんもいてお酒飲みながらアートを語れる空間はすごく素敵です。地域の方の反応はいかがですか?


難しいですが少しずつ、でしょうか。先日の地蔵盆の時にはドナルドと一緒に参加したり、ここを自治体の会合に貸したりして少しずつ地域に認知されればと思っています。ここはレジデンスとしてだけではなく、いろんなことに使ってもらいたいんです。


―レジデンス以外のイベントにはどんなものがありますか?


せっかく町家を改装した施設なので、和のイベントも、と思って長唄のイベントを開催予定です。運営側主体というよりは、使う側主体でどんどん楽しいことをしていきたい。これまで決まり事ばかりの世界で生きてきたので、これからはルールをどこまで取っ払えるか、そういうことを楽しみたいです。


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≪山懐庵 山崎良/北村香織≫


―山懐庵アーティスト・イン・レジデンスvol.4が終わったばかりですが、いかがでしたか?


北村:今回は60代、70代のアーティストがぶつかり合う、というレジデンスになったのが面白かったです。作風も制作スタイルも完成されてる年代ですからよけいですよね。雨の日が多かったのですが、堀尾貞治さんは、雨が止んだらみんなを連れて外で制作をして、雨が降ったら中に入ってまた違うパフォーマンスをして、と一日中続けていました。瀧川みづほさんは今回、思い通りにいかないことが多かったと思います。染織作品なので、雨だと作品にビニールをかけて展示しないといけないことや、予め作るものを決めてこられていたので、そこで初めから何かをつくりだすというスタンスではなかったということがあります。小森文雄さんはここで見つけた蛙を描くことに夢中で、14日間毎日朝から川に行って蛙を描いておられました。
山崎:これが3人の即興パフォーマンスの様子です。

(映像を見る)

北村:堀尾さんが次々とパフォーマンスを繰り出すことについて、他の二人は「すごいなあ」といいつつそのことに対する批判的な部分も持っていたりする。それを普通だったら言わないと思うんですけど、自然に言える雰囲気が作れたのがよかったですね。



左から瀧川みづほ、堀尾貞治、小森文雄



堀尾貞治さんのパフォーマンス


―山懐庵は滞在作家をお二人が決められてるんですよね。3人の組み合わせが面白いなと思ったのですが、どのように選ばれたのですか?


北村:小森さんはこのレジデンスの前に展覧会をしていただいていたのでその縁で。堀尾さんは小森さんに紹介してもらい、お会いして決まりました。あと一人入れたいと思ったのですがこれはかなり迷いました。
山崎:違う分野で、ということと現実問題来てくれる人ということで、同じ京都アートカウンシルのメンバーでもある瀧川さんに声をかけました。
北村:ほんとは30代くらいの若い作家にも来てほしいんですが、その年代の作家と話せば話すほど壁を感じます。私たちは割とはっきり意見を言うのですが、彼らは批判されることに慣れてないのかもしれないですね。逆に私たちと同年代の作家は活動が忙しくてなかなか2週間身体があかない。もっと有名なレジデンスであれば、どんな作家さんたちにも来てもらえると思いますが、やっぱりここの趣旨をきちんと共有して来てほしいんです。芸術家が芸術家として生きていくための社会的な基盤づくり、芸術活動を自由にできる場所を作って、一緒に互いのレベルを上げていく。自分たちにできるのはそういうことだと思って山懐庵の活動をしています。



山崎良さん(左)と北村香織さん(右)


―作家の滞在中、お二人の役割は?


山崎:部屋の掃除、食事や洗濯など身の回りのことをします。作品に関しては完全に作家さん達で、というスタンスです。

北村:制作以外のことはサポートすることで、制作にむかう雰囲気をつくるんです。


―食事や洗濯まで!すごいですね。地元の方の反応はいかがですか?


山崎:もっと企画を進めてほしいと言われています。地元の人もこの地域にいろんな人が来ることを望んでいると思います。
北村:芸術家だけが主体でもなく、かといって村おこしでもなく、お互いがありのままで理解し合えるようにならないと続かないと思います。
山崎:レジデンスを今打ち出していますが、もともと「山懐庵プロジェクト」のひとつにレジデンスがあるという位置づけです。山懐庵は他にもいろんな使い方ができると思うのでいろいろアイデアや企画を提案して欲しいですね。


■取材:2013年9月12日(木)寄す処、2013年9月24日(火)山懐庵にて

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