2022年度に実施された「文化庁移転記念事業をめぐる『ART WALK KYOTO』(主催:京都市)。
同事業で読み物としてお届けしたおすすめコースを再掲載しています。
地形や地質、建築文化から町グルメまで独自の視点で京都のミニツアーを開催する「まいまい京都」の代表・以倉敬之さんと出町柳駅で待ち合わせ。その目的は「KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭」の共同創設者/共同ディレクターである仲西祐介さんとともに界隈を歩き、このあたりの魅力を語ってもらうため。途中、下鴨神社に立ち寄り、仲西さんがクリエイティブディレクションしている展覧会「LIGHT OF FLOWERS 花と光」を鑑賞し、「KYOTOGRAPHIE」の拠点「DELTA(デルタ)」へ。街歩きと写真祭、京都のまちをフィールドに活躍するお二人は、このルートからどんな会話を繰り広げるのでしょうか。
以倉敬之
まいまい京都代表
仲西祐介
KYOTOGRAPHIE共同代表
今回紹介するコース
1 糺の森
京都府京都市左京区下鴨泉川町59-2-15
京都市左京区の賀茂御祖神社(下鴨神社)の境内にある鎮守の森。平安遷都以前の植生が残されている。1994年に下鴨神社の一部としてユネスコの世界文化遺産に登録されている。
2 出町桝形商店街
京都府京都市上京区青龍町
大正時代から商店が集まって形成された、地域密着型のアーケード商店街。「DELTA」や「出町座」という文化拠点を含め、新旧の店舗が入り混じる。
3 DELTA|KYOTOGRAPHIE Permanent Space
京都府京都市上京区三栄町62
「KYOTOGRAPHIE」の初となるギャラリーを併設した常設スペース。2022年9月よりキャリア20年のベテランシェフ近江文彦氏を迎え、メニューをリニューアル。カフェビストロとしての機能を本格始動。
二者の出会う場所、“デルタ”からみる京都の足跡
-お二人は、意外にも初対面と伺っています。今日はよろしくお願いします。途中、下鴨神社に立ち寄り、仲西さんがクリエイティブディレクションしている展覧会を見学したのち、「DELTA」を目指そうと考えています。仲西さんは、なぜ出町柳を「KYOTOGRAPHIE」の拠点に選んだのですか?
仲西祐介:
出町柳は、京都大学や同志社大学もある学生の街で、昔からサブカルチャーも盛んな印象があります。鴨川もここから北へ行くに連れてワイルドになっていく感じが好きなんです。鯖街道をはじめ農産物や海産物を京都に運んでくる通過点。いろいろなものの玄関口であり、境目なんですよ。街と自然の中間くらいに位置していて、歴史ある入口であり出口であったことも注目した部分です。
以倉敬之:
仲西さんがすべておっしゃってくださいましたね(笑)。「KYOTOGRAPHIE」は街を舞台にされていますから、文化芸術の入り口にふさわしい場所だと思います。
仲西祐介:
「KYOTOGRAPHIE」は、春の1ヵ月だけの開催で残りは準備期間。作品を披露できる期間や数には限りがあるので、年間を通して紹介できる場所を持ちたいなと考えていました。そんな時に、出町桝形商店街のなかにある物件と出会ったんです。
-「国際写真祭」と銘打つフェスティバルの拠点として商店街が選ばれたのは意外な気もします。
仲西祐介:
周りに相談すると反対する方もいましたね。商店街が廃れていくイメージを持つ方もいらっしゃいますが、我々は逆。ものの価値をわかっている人からものを買うほうがいいし、これからは人と人の繋がりがより密になっていくと考えています。そうした意味でも商店街でアートスペースというのはむしろ可能性があると判断したんですよ。
以倉敬之:
出町桝形商店街は本当に元気ですよね。また、庭園文化を築いた庭師や歌舞伎役者など、京都の伝統を形づくったアーティストも、もとを辿れば鴨川の河原から出発したとも言えますし、つながりを感じます。
仲西祐介:
出町柳といえば、ちょうどこのあたり。江戸時代から続く種苗店「タネ源」さんと弁天さん(出町妙音堂)の壁面、河合橋東詰の歩道を使わせていただいて、京都のストリートフォトグラファー甲斐扶佐義さんの作品を展示したんですよね。
2020年の「KYOTOGRAPHIE」より。甲斐扶佐義さんは、京都の文化人が集うバー「八文字屋」の店主としても有名。
-どのような作品だったのでしょうか?
仲西祐介:
50年間、鴨川周辺を撮り続けた甲斐さんらしい作品で、京都の方にとっては自分のおばあちゃんが写っていたり、自分が子どもの時だったり、思い思いに楽しんでもらえました。一方で東京や海外から来た方には、鴨川を中心に文化が起こっていたんだなと感じてもらえた。音楽も演劇も鴨川にテントを立て、まさに鴨川デルタで行われていた。「DELTA」も伝統的なものと革新的なもの、メジャーとアンダーグラウンド、ローカルとグローバルが重ね合わさる場所にしたいなと思っています。
以倉敬之:
街の景色の話でいうと、この出町桝形商店街の入り口は、文字通り「桝の形」になっているんですよ。「桝形虎口(こぐち)」といって、お城の出入口によく見られますが、敵が攻めてきた時に足止めしやすいような形になっているんです。出町の場合、江戸時代の前期に鴨川の治水工事を行ったのですが、その際に桝形の出入口となり、それが今の出町広場に繋がっています。ほら、出町橋と商店街が少し食い違っているのがわかりますよね。
「桝形虎口」の技術を用いて鴨川の治水工事が行われた。出町桝形商店街の名称の由来となった。
仲西祐介:
毎日のように歩いている場所も、以倉さんと歩くと新鮮に映ります。
以倉敬之:
また、出町桝形商店街の通りは、西に向かって微妙に勾配があるんです。鴨川の水流によって古代末に段丘化したと言われています。京都は水害と向き合ってきた街ですが、この高低差のおかげで京都御所が現在地に落ち着いたとも言えるんです。
「店先の段差を見ると、桝形通が緩やかな勾配になっていることに気づく」と以倉さん。左(東)から右(西)に向けて段差が浅くなり、傾斜地であることがわかる。
仲西祐介:
「DELTA」はギャラリーという特性上、天井を高くするために地面を掘ったんです。半地下のような構造になり、浸水を恐れたのですが、この勾配のおかげで大丈夫だろうと判断しました。まさか、鴨川のおかげだったとは!
「DELTA」の1階は半地下のようなスペースに「KYOTOGRAPHIE」の展示とレストラン、2階はアーティスト・イン・レジデンスになっている。
以倉敬之:
このロゴも印象的ですね。
仲西祐介:
賀茂川と高野川という2つの川が合流し、鴨川になる「三角州」をイメージしました。まさに出町桝形商店街から着想して二つの「桝(四角)」を合わせたんです。ちなみに、傾きの角度は鴨川のデルタの角度に合わせているんですよ。
以倉敬之:
いろんなことにリンクしていますね。
仲西祐介:
川と川が合流するように、異なるもの同士が合わさる。共同代表のルシールは写真家で、僕は照明家。フランス人と日本人です。「KYOTOGRAPHIE」をはじめた僕たちのように、違う価値観が合流できる場にしたいと思いました。
枯れ葉が魅せる、人の営みと自然の環
11月3日から12月12日までの期間、下鴨神社で開催された「LIGHT OF FLOWERS 花と光」。
-下鴨神社にやって来ました。今回、仲西さんがクリエイティブディレクションされたジュエリーブランド「ヴァンクリーフ&アーペル」と華道家・片桐功敦のインスタレーション展示を鑑賞しに行こうと思います。
仲西祐介:
普段から下鴨神社にはよく来ているんです。本殿まで続く「糺の森」のアプローチは、小川が流れていて本当に気持ちがいい。
以倉敬之:
この小川ですが、境内の御手洗池(みたらしいけ)からではなく、上賀茂神社から流れているんです。古代豪族の賀茂氏が整備したといわれています。
-それにしても、落ち葉の量がすごいですね。
以倉敬之:
「糺の森」はニレ科を中心とした落葉樹の原生林なんです。このあたり一帯は、洪水が頻繁に起こっていた場所なんですよ。肥沃な土地だとシイ等の常緑樹林が形成されるのですが、度重なる洪水によって土地が安定しないと、ニレ科が強い。ゆえに、都市部では非常に珍しい落葉樹の原生林が残ったんです。
以倉さん「これだけの都市部に、落葉樹の原生林があること自体、非常に珍しいんです」
仲西祐介:
なぜ珍しいのでしょうか?
以倉敬之:
川に近いということは人間が住みやすいところとバッティングし、開拓されてしまうんですよ。100万人規模の街の中心部となると、なおのこと消えてしまうのですが、ここは神社の聖域として残りました。
仲西祐介:
1つ目のインスタレーションは、まさに落葉樹の森のおかげで成立した作品です。花をモチーフにしたジュエリーブランドの展示を行うにあたり、落ち葉を素材にするのはどうかという不安もありました。けど、落ち葉が腐葉土になって、次の命や新たな花が生まれる。命の循環、水の流れ、生命の流れはつながっているものだから、その循環にもう一度注目してもらおうと考えました。
花をモチーフにしたジュエリーブランド「ヴァンクリーフ&アーペル」が、華道家の片桐功敦さんや空間デザイナーの小西啓睦さんらとコラボレーションした展示「LIGHT OF FLOWERS 花と光」。仲西さんはクリエイティブディレクターとして関わっている。
仲西祐介:
あまりに落ち葉が多かったので、これを使って何かできないかなと考えたんです。それで、落ち葉の山で社をつくったのですが、以倉さんの話を聞いて、作品の強度が増したように思います。
以倉敬之:
まさしく落葉樹の森だからこそ成立する作品ですね。現代人にとっては落ち葉って影の薄い存在ですが、燃料や肥料になるし、人間の営みに欠かせなかったですからね。
仲西祐介:
そう、日本人の暮らしは森と共にあり、落ち葉も生命の営みに役立つものです。「ヴァンクリーフ&アーペル」のブランドイメージはもちろん、下鴨神社からも景観を壊すものではないと許可をいただいて成立しました。
以倉敬之:
社の中に入れるんですね?
仲西祐介:
古墳のようなアプローチがあり、落ち葉の山を抜けることができます。こういう装置の中に入ることで自然との一体感みたいなものも感じてもらえたらと。
空間内部は、左官職人の久住有生さんが手がけた。土肌をくり抜いたような天窓がつく。
以倉敬之:
古墳のようにも見えますが、茶室のにじり口のような感じもあり、抜けた先の清流に一輪の花が見えるというのも素敵な演出ですね。
仲西祐介:
展示の期間中、華道家の片桐さんは下鴨神社の側で生活し、ほぼ毎日、草花のメンテナンスをされているんです。ヨーロッパ的な花とは異なり、日本の生花の凛とした雰囲気がハッとさせてくれますよね。
時と水の流れが描く、自然と人間の時間
仲西祐介:
「糺の森」を抜けて、本殿の東、御手洗池のあたりにやって来ました。2つ目の作品を展示している会場に、ちょうど華道家の片桐さんがおられるのでお話を伺いましょう。
御手洗池を渡った先、本殿東側に位置する特設会場。
中に入ると、正面のガラスに転写された虫食いの落ち葉の写真が、黒い水面に映る。
-こちらの作品はどのようなコンセプトなのでしょうか?
片桐功敦:
作品に向かって右手に枯蓮(かれはす)を置き、左に向かう順に季節が移り変わっていくイメージで、いま花を入れ替えていっています。手入れはまだ終わってないけれども、花が終わりを迎える中で春がまたこちらにむかっていく。小さな凝縮された空間のなかで、自然の一部を映し出しています。
花道みささぎ流三代目家元・華道家の片桐功敦さん。伝統のいけばなから現代美術的なアプローチまで幅広い表現で花の魅力を発信する。
以倉敬之:
固定化された作品ではなく、今みたいにお手入れをずっとされているのですか?
片桐功敦:
生花を扱う展覧会の期間は、通常は1週間くらいです。しかし、今回は期間も長く、11月頭にはじまった当初の花はもう手に入らないんです。そうした理由もあり、今回の展示は2週間で一度リセットしています。
以倉敬之:
枯蓮の存在そのものの美しさもそうですが、光が当たることで水面が鏡のように映し出され、これにはハッとさせられますね。桜や紅葉のような派手さはないけれど、不思議なぐらいの美しさを感じます。
仲西祐介:
会場がある種の「フレーム」として景色を切り取ったときに、普段は無意識下にある時間の流れやその美しさが表出されるのかもしれません。川の流れがはじまるこの場所を手水場として、3つの作品があるという構成です。
-3つ目の会場は、御手洗池を挟んだ先にある、重要文化財の細殿ですね。
仲西祐介:
はい、天皇がかつて休まれた場所とも言われています。ここは「KYOTOGRAPHIE」としても縁のある場所で、第2回目(2014年)の開催の際、日本全国の海岸線に建ち並ぶ原子力発電所の風景写真を展示させていただきました。日本人の自然崇拝を再考するインスタレーションとして発表しました。
以倉敬之:
世界遺産でもある「糺の森」という自然のなかで、原発の写真を鑑賞することの意味を感じますね。
仲西祐介:
そして今回は、先ほどの落ち葉の社も手掛けてもらった左官職人・久住さんに、水の流れをイメージしたディスプレイを仕立ててもらって、「ヴァンクリーフ&アーペル」のジュエリーを展示しました。花が川のせせらぎを流れていくようなイメージです。
仲西祐介:
和紙を用いた丸い壁面は、京表具の井上光雅堂さんに設えてもらいました。こうした展示を行う際に、伝統工芸の職人さんたちに支えてもらっているのですが、彼らの技術に驚くとともに、京都がいかに恵まれた土地であるかを感じますね。
以倉敬之:
会場となった落葉樹の森、御手洗池の水、そして細殿という歴史的な寺社建築も合わせて、まさに下鴨神社という空間をめいっぱい活かした作品ですね。
仲西祐介:
本当によく貸していただいたなぁと。ありがたいことですね。
”KYOTO”でアートフェスを起こす意味
-さて、最終目的地の「DELTA」にやって来ました。元々魚屋さんだったんですか?
仲西祐介:
そうなんですよ。元の建物の入り口には大きな魚型の模型が掲げられていました。商店街の方と学生さんが一緒に作ったようで、捨てるのは忍びなく貰い手を探したところ、欲しい人が見つかったんですよ。いまは金沢の近江市場の居酒屋さんの前に飾られています。運ぶのに大きすぎたので3枚におろして、サバからアジになっていました(笑)。
以倉敬之:
さらに遡ると、もともとは鯛の模型だったらしいですね。さらにサバからアジになっていたとは…。
-以前、京都の芸大生が出町桝形商店街の傷んだところをアートで修復するという活動をしていました。魚型看板のリサイクルも、日常に溶け込む商店街らしいアート作品ですね。
仲西祐介:
リサイクルといえば、僕たちの「DELTA」で使用している家具は、アフリカ・セネガルのダカールという町の路上で作られたガス管とドラム缶をリサイクルしたものなんです。錆びたままニスを塗るなんてアフリカらしいというか、日本にはない感覚が気に入りました。
-「KYOTOGRAPHIE」では、商店街のアーケードに、アフリカのアーティストの作品が展示されていますね。
仲西祐介:
2020年からアフリカのアーティストを招聘し、グローバルなアーティストとローカルな商店街をつなげることで新たな表現を生み出すプログラムを実施しています。商店街の人も最初はびっくりしていたけど、あえて異文化を合わせることでまた新しい文化が生まれるんじゃないかなと思っています。
出町桝形商店街との最初のコラボは、セネガル出身のオマー・ヴィクター・ディオプが京都に滞在し、商店街で働く店主たちをポートレートに収めたコラージュ作品を巨大プリントし、アーケードに吊るした。
仲西祐介:
アフリカに関しては、京都精華大学の前学長であるウスビ・サコさんが頑張って留学生を受け入れてくれているので、徐々にアフリカの文化が京都に広がってきていますよね。そういうなかでいい関係性をつくっていけたらなと思っています。
以倉敬之:
京都とアフリカ。遠い関係に思えますが、エキゾチックな柄のアフリカン・プリントを施した生地は、戦後の京都で盛んに作られて輸出されていました。「アフリカらしい」ものとして愛用されてきたものが、実は京都で生産されてきた。「禅」が逆輸入されるかたちで、日本人の関心が再びお寺や庭園へと向いたように、グローバルとの行き来のなかで、新しい文化的価値が生まれる時代になってきたのだと思います。
残る、残す建物から起こすアートと感情。
-今日、お互いに話してみて、どうでしたか?
仲西祐介:
今回、以倉さんと歩きながらお話しさせていただいて知らないことがたくさん学べてよかったです。下鴨神社はもちろん、拠点としている出町柳や商店街にも。
以倉敬之:
仲西さんが手掛けることは、本当に街の文脈にビビットにマッチしていますよね。表現を通じて、街の歴史や輪郭が浮かび上がってくる感じがします。「知らなかった」と言われましたが、逆に驚くほど。細かい知識がなくとも、「KYOTOGRAPHIE」というアートイベントを通じて街の特徴が浮かび上がってくるのは、街に寄り添ってこられたからだと思います。
仲西祐介:
感覚だけで生きています(笑)。「KYOTOGRAPHIE」を通じて、街の力をもらっているんです。だからこそ、街を大事にしないといけないなと。たとえば、僕の好きな町家はなくなっていくけれども、いかに残していけるか。現在の生活にはどうしても合いにくいけど。どうやってうまく使うことができるかを促していければなと。いま町家を所有する人に取材をして、写真や映像で伝えていく事業に取り組んでいます。
以倉敬之:
僕も元お茶屋の建物に住んでいるんです。娘の部屋は鏡張り、僕の部屋は狭い座敷に床の間がある。1階はバーとして利用もされていて、網代天井もあるんです。そのまま使うのは暮らしにくいので少し手はいれましたけれど、できるだけ残して、建物や街を受け継いでいきたいですね。
仲西祐介:
「KYOTOGRAPHIE」という言葉は、「光(photo)で描く(graph)」という意味をもつ「PHOTOGRAPHIE」から名付けました。つまり「京都の街を描く」という目的のもと、残していきたい建築や場に光を当ててきました。
以倉敬之:
照明家である仲西さんらしい名称ですね。
仲西祐介:
今年から新たに「KYOTOPHONIE(キョウトフォニー)」という音楽フェスティバルも開催します。京都を舞台に、小さくてもクオリティの高いライブパフォーマンスの体験を届けようと考えています。「KYOTOGRAPHIE」のように、特別な建物や場で、そこで音を聴くことで何かを感じてもらえるようなイベントにしたいと考えています。
2023年より新たに開催される「KYOTOPHONIE(キョウトフォニー)」。
仲西祐介:
そこで、以倉さんに相談があるんです。音を聴く場所として魅力的な建物を知っていませんか?先日、以倉さんたちが中心になって開催された「京都モダン建築祭」に視察に行こうと思ったのですが、予約で既にいっぱいでほとんど見れずに終わってしまいました。
以倉敬之:
パッと浮かぶのは教会とかでしょうか。音は良さそうですよね。あと旧歌舞練場とかにも舞台がありますけど、修復の問題がありますよね。建物としては面白いですけど。
仲西祐介:
それは面白いですね!
以倉敬之:
「京都モダン建築祭」で意外だったのは、看板建築や洋風町家などの建物。誰が見ても「おおっ!」と反応するような分かりやすい建物ではないし、そんなに派手じゃない。けれど、訪れた方の反応から、十分に楽しんでもらっていることが伝わってきました。建築祭というテーマだから光を当てられる場所だったのだと思います。「KYOTOGRAPHIE」は、どのように会場を開拓してきたのですか?
仲西祐介:
1年に1回のフェスなので、毎年、準備にも十分な時間がないんです。建物を借りることが難しい、やりたい企画がこの場所では難しい、と思ったらすぐに切り替えて、次のアイデアをださないといけません。
以倉敬之:
私も考えた企画が通らなかったら、すぐに忘れて次にいきます。社員からは「何も覚えてないですね…」といわれますが。
KYOTOGRAPHIE共同代表のルシールさんが飛び込み参加。
ルシール・レイボーズ:
忘れる力は大事ですよね。どうしてもやりたかったら諦めずに何度も行きます。本当にしつこいなと思われるくらい。最初は誰だかわからない人間が建物を貸してとお願いしても、もちろん断られますよね。何回も通い、やっと門を開けてもらって話を聞いていただける。10年も続けてきましたが、ここまで京都の街と一緒にできるなんて思ってもいませんでした。
仲西祐介:
なにかを創り出すのはつねに挑戦、クリエイションの連続です。いろんな方法を考えて形にしていく。その挑戦が大事。京都の街は古いものを守ってきたからこそ、新しい使い方の提案にも目を向けてくれる素地があると思います。素晴らしいものを残すために、新しい使い方を提案し、新しい見え方や価値にもつなげていく。それが結果として残っていくことになると思うんです。
ルシール・レイボーズ:
今でこそ多くの人が関わるイベントになりましたが、最初はフリーランスの写真家と照明家がはじめたもの。そもそもどういうふうにフェスやイベントをやったらいいかもわからなかった。けれど、知らないからこそ自分たちが見たいものを創るという気持ちで続けてきました。今回「KYOTOPHONIE」という音楽祭をはじめるのも、実はどうやったらいいのかわからない。だからこそ、他にはないものができるのではないかと考えています。
以倉敬之:
これまでの観光体験では価値化されていなかったものをツアーとして提供する僕らも同じですね。街を魅力的にするのは、その人ならではの視点です。事務局の人間がアンテナを張り、常に魅力的な人を探しています。例えばこの出町桝形商店街も、仲西さんに案内してもらったら面白いかも。KYOTOGRAPHIEツアーができても面白いなと思います。
仲西祐介:
ぜひ。アーティストを呼んだ理由やその背景、作品だけでは語られない面白さを伝えられたらいいなと思います。ツアーに限らず、まいまい京都は京都の貴重な建築遺産とのアクセスを持っていて、「KYOTOGRAPHIE」はそれを文化的に活用するアイデアを持っているので、いいコラボレーションができるのではないかと思います。
-今日はありがとうございました。
=====================================
以倉敬之
まいまい京都代表
高校中退後、バンドマン、吉本興業の子会社勤務、イベント企画会社経営を経て、2011年「まいまい京都」を創業。2018年には「まいまい東京」、2022年には「京都モダン建築祭」も開始した。NHK「ブラタモリ」清水編・御所編・鴨川編に出演。共著に「あたらしい『路上』のつくり方」。
仲西祐介
KYOTOGRAPHIE共同代表
映画、舞台、コンサート、ファッションショー、インテリアなど様々なフィールドで照明演出を手がける。「eatable lights」などライティング・オブジェ作品を制作。原美術館(東京)、School Gallery(パリ)、「Nuits Blanche」(京都)でインスタレーション作品を発表。2013年より写真家のルシール・レイボーズと「KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭」を立ち上げ主宰している。