2024.01.20

【ART WALK KYOTO_3】アートの世界、その周辺を巡る話。小さな京都を、巡りながら考えてみた。(後編)

2022年度に実施された「文化庁移転記念事業をめぐる『ART WALK KYOTO』(主催:京都市)。
同事業で読み物としてお届けしたおすすめコースを再掲載しています。




「京都市内を巡りながら、アートをテーマに語ってもらえませんか?」それ以外のお題はなしで、京都のアートに深く関係する3人にお願いしました。引き受けてくださったのは前編に引き続き、研究者・アートディレクターの石川琢也さん。KYOTO EXPERIMENT共同ディレクターのひとり、ジュリエット・礼子・ナップさん。そしてロームシアター京都の広報・事業企画を担当する松本花音さん。昼編で最終的に飛び出したのは「食」というキーワード。出町柳界隈を食べ歩きながら、3人はどのような話をするのでしょうか?



ジュリエット・礼子・ナップ


KYOTO EXPERIMENT共同ディレクター 



石川琢也

 
研究者 / エクスペリエンスデザイナー / アートディレクター



松本花音

 
ロームシアター京都の広報・事業企画



今回紹介するコース

1 中国菜 燕燕
  京都府京都市上京区今出川通寺町西入ル大原口町211-1F

中国出身シェフが作る本格中華料理。中国の江南地方にある古民家をモチーフに白を基調としたお店。中国政府機関公認資格(評茶員)を持つ日本人オーナーが厳選した中国茶も充実しており、紹興酒など多様な中国のお酒も楽しめる。


2 日本酒と肴と
  京都府京都市左京区田中上柳町1-2

SSI公認の唎酒師(ききさけし)の上位資格である日本酒学講師の伊東昭黃士さんが店主の酒処。川端丸太町で17年営業したのち、5年前に新しく出町柳駅の北側に開店したお店。店主選りすぐりの日本酒と肴が楽しめる。


3 保存食lab
  京都府京都市左京区吉田泉殿町68-24

伝統的な保存技術を現代の食卓に応用することを日々探究している。京都の北部に位置する京丹後の自家菜園で大切に育てた旬の野菜や果実を使用している。






出町柳の中華の名店で、紹興酒を片手にアートの制限と可能性について考える。



紹興酒は、中国浙江省紹興市で作られたもののみ、その名を名乗ることができる。同じ製法でも場所が違えば紹興酒ではなくなる。アートにもそうした制限はあるのか?出町柳の中華の名店「中国菜 燕燕」でアートの制限と可能性について話がすすむ。


石川琢也:
今日はちょっとした小旅行だね。もうちょっと東の方にも行きたかったけど、「外(注1)」とか。でも、こうした企画って、時間もそうだけど予算を決めるのも大事だよね。0円で楽しむか、10万円で楽しむか。

松本花音:
0円だと鴨川で遊ぶとか?

ジュリエット・礼子・ナップ:
京都は、鴨川をはじめ無料で楽しめる公共空間がたくさんある街ですよね。

石川琢也:
拝観料のないお寺もあるからね。あと、編集が学べる「浄土複合(注2)」にも行きたかった。

松本花音:
編集はほんとに大変な作業ですよね。熟考したり集中する必要があるから、他のことをやりながら並行してはできない。

ジュリエット・礼子・ナップ:
そうですね、KYOTO EXPERIMENT(以下、KEX)でも毎年作っているマガジンの編集は大変です!

石川琢也:
でも編集こそ面白さの醍醐味だよね。


ジュリエット・礼子・ナップ:
文化芸術の情報を継続的に発信するウェブメディアが京都に少ないってお昼に話したけど、何もウェブメディアじゃなくても良いかもしれないですね。イベントの一覧とか、そこに行けば日英で情報が網羅されているというものがあれば。

松本花音:
それこそInstagramやTwitterでやればいいんじゃない?

石川琢也:
回覧板でも良いよね。例えば、うちのマンションの1階の掲示板って、テナントの情報や展覧会情報など貼られているからちょくちょく見ちゃうんだけど、そうした掲示板を拡張するようなイメージで、回覧板程度で意思を持たなくても届くメディアとか。読んでもらう工夫は必要だけど。

松本花音:
京都市の市政広報板はよく見られているよね。

ジュリエット・礼子・ナップ:
そうそう、KEXのポスターが貼られると、割と沢山の人に「あーポスター見たよ」なんて言われる。

京都市広報板に貼られたKYOTO EXPERIMENT 2022のポスター


松本花音:
市政広報板は、京都市主催・共催の事業しか掲示できないけど、似たような掲示板が街中にいっぱいあるのがいいかもしれないね。例えば、市政広報板の隣に誰でも掲示してよい掲示板を立てても良いかもしれないね…。大混乱か。

石川琢也:
市政広報板に掲示されていること自体が信頼になっているからね。ここに貼っているものは大丈夫だよというか。

ジュリエット・礼子・ナップ:
市政広報板の数が多くてとてもいい広報ツールですよね。KEXでは会期前一か月前からの二週間ぐらい掲示させていただいています。

松本花音:
他の自治体に、これほど更新頻度の高い公共の掲示板ってあるのかな。

石川琢也:
「山口情報芸術センター[YCAM](注3)(以下、YCAM)」で働いていた時、ワークショップのチラシを小学校で配布していたな。それは影響力が大きかった。親子だけじゃなくて、子どもだけで勝手に来てくれる子もいて。そういうのもインフラだよね。住民20万人規模だとできる。そうした周知方法はまだまだありそう。

松本花音:
市政広報板も含めて、京都で機能する最重要メディアは「口コミ」だと実感することは多いですね。

石川琢也:
それと、京都は作品や鑑賞行為との距離が物理的に近い。京都市内中心部にはなるけど、家の近くのどこかで何かが常にやっている。作品を見ることができる場所が住居から歩ける距離にあるのは良いですね。最近『映画を早送りで観る人たち』という新書を読んだんだけど、映画は昔のテレビ番組のような会話の種だから、早送りでもOKみたいなね。観た事実があれば良いという価値観がある。

ジュリエット・礼子・ナップ:
観たいから観るんじゃなくて、会話の種なんだ。

石川琢也:
メディアやデバイスの機能の影響も大きい。タップやクリックで任意の場所に飛ばせるからね。僕もスマホでみてたらたまに飛ばしちゃう。鑑賞体験としての良し悪しはあるだろうけど、友人や近くの人と作品の話をするのはいいと思う。


松本花音:
京都では、メジャーな作品もコアな作品も幅広く見ることができるのが良いですよね。でも、メジャーな作品って東京でつくられたものが多くて、京都をはじめとした地方都市はそれをお金を払って招聘して、展示や上演しているという現状がある。京都にはアーティストはたくさんいるので、京都拠点の資本や企画・運営体制で規模の大きい作品も製作できるようになるのが理想的だと思います。

石川琢也:
質の高い作品を展開できる土壌が京都にあるけど、そもそも作家やアーティストの数に対してプロデューサーの人数が少ないのかも。企画だけでなく、お金のこと、文化の醸成を考えるような人。

松本花音:
プロデューサーが少ないのは実際そうだと思います。企画立案から実現までの最初から最後までを総合的に仕切れる人や、大型だったりステークホルダーの多い案件をディレクションしたりハンドリングできるアート側の専門人材が京都にあまりいないような気がします。関わるスタッフや関係者が100人以上になるような規模の企画に対するプロジェクトマネジメントのノウハウを身につけることのできる機会が少ないんですよね。それは街の規模としてはしょうがないかもしれないけれど、世界に目を向けるなら必要なんじゃないかなと。

ジュリエット・礼子・ナップ:
プロデューサーの育成に関しては、2022年にロームシアター京都やKEXなど複数の京都の舞台芸術団体が共同で主催した「舞台芸術プロデュース講座~演劇・ダンス編~」があげられます。色んなトピックでレクチャーやワークショップを8回にわたってやりました。もっとこういう人材育成だけのための助成があるといいですよね。例えばKEXや劇場で長期的なトレーニングやメンタリングのプログラムを作るとしても、教えるのにも、学ぶのにも時間と資金は必要ですよね。

石川琢也:
時間とお金を用意することで、アートにおける生産環境やネットワークを高めることができる。そういうノウハウを学べる機会はまだまだ広げられるかなとは思います。「GEIST」という作品などで制作を共にしている音楽家・作曲家の日野浩志郎くんは偉いなと思う。自分でプロジェクトもやるし、会社もつくって助成金もアプライする。レーベルを通して海外のアーティストや鼓童のような伝統芸能ともネットワークを築いている。contact Gonzoの塚原悠也さんのキャリアの積み方も面白い。ああいう人がKEXでディレクターをやっていると、こういうキャリアもあるんだなと思う学生も多いと思う。日野くんもそうですが、再現不可能性が高いキャリアの積み方であっても、そういう人がメンターを務め、一緒に学んでいくシステムがもっといっぱいあっても良さそう。

日野浩志郎「GEIST」 撮影:井上嘉和

GEIST
「GEIST」は、作曲家/ミュージシャンの日野浩志郎による、コンサートピースでありながら、インスタレーション的な側面も含む総合的な作品。様々な音が重なるレイヤーの「多元的空間」を劇場空間の中で創出することを目指したプロジェクト。2018年の初演以来アップデートされ続けており、2019年は山口情報芸術センター、2021年度には京都芸術大学舞台芸術研究センターと共同し、自動演奏装置の発展及びその制御システムの制作などが行われた。
https://icakyoto.art/realkyoto/reviews/86328/
https://www.ameet.jp/feature/3912/





熱燗の温度は自分で選べるが、クリエイションの温度はいかに。


次に向かったのは、出町柳駅の北側。唎酒師(ききさけし)が店主の酒処「日本酒と肴と・・・クウカイG」。お勧めの熱燗は、温度計を眺めながら「ここぞ」というタイミングでお燗をあげる方式。では、クリエイションの温度はどうやって高まるのか。話はなぜかランチスポットへと進む。



石川琢也:
夜になって自転車から歩きになったけど、京都の移動範囲はモビリティで変わるよね。

ジュリエット・礼子・ナップ:
私は普段は自転車だけど散歩もいいよね。考え事ができるし。

石川琢也:
お昼ご飯食べた後に散歩したりね。家の近所だと、岡崎あたりから東山のほうまで行ったりとか。


松本花音:
ランチはどこで食べてる?

石川琢也:
大学の近くだったら「四川料理 駱駝」が多いかな。季節限定の牡蠣料理はほんとたまらない。家の近くでは、「とよ寿司」とか。穴子丼も美味しいけど恵方巻も美味しい。その他では、カレー専門店の「ビィヤント」。

松本花音:
あー!ビィヤントはよく行く。

石川琢也:
東山のカフェ「102 Old River」のとんてき定食もオススメ。

ジュリエット・礼子・ナップ:
KEXの事務所が丸太町の近くなので、ロームシアター京都で打ち合わせがあると、「パクチー丸太町店」はよく行きますね。KEXの事務所近くだと、「インド食堂TADKA(タルカ)」というカレー屋さんに行きますね。


石川琢也:
あと、京都でよく行くのが銭湯。週2ぐらいで行っています。山口では「湯田温泉(注4)」に住んでいたこともあり、京都に来てからしばらく京都中の銭湯を巡ってたな。今は落ち着いて家の近くの「銀座湯(注5)」ですね。あと僕が完全にスマホ中毒なので、銭湯入るときだけが唯一リセットできる。とても貴重な時間です。あとは人間観察が楽しい。サウナの中での、おじさん達とか京大生の会話で、街のバイブスを探っています。

松本花音:
「サウナの梅湯(注6)」がはじめた「源湯(注7)」は、お風呂上がりにビールが飲める、くつろぎスペースがあるって聞いた。

ジュリエット・礼子・ナップ:
あーサウナの梅湯いいですよね。源湯にも行ってみたい。

石川琢也:
銭湯は人気があるけれど、光熱費の高騰などで経営が苦しいところが多いらしい。銭湯は一度廃業すると新しく作るのは難しいし、銭湯好きとしては潰れる前の危ない状況とかオープンにして欲しい。何でも協力したいし、日々の行動にも反映しそう。

松本花音:
行く人増えているって言うけど、毎日はなかなか行けないしね。

ジュリエット・礼子・ナップ:
去年の冬に、私の家のボイラーが壊れて2週間お湯が出なかった時があって、毎日家の近くの銭湯に通ってた。通うことで常連の方とかと仲良くなって、今行くと「久しぶり〜」みたいな関係で昔はもっとこういう近所の人と交流する場だとわかりました。

石川琢也:
社交場ですよね。YCAMに勤めていた時も、クリエイションが終わった後は、美味い魚と風呂みたいな。

松本花音:
それこそ銭湯にアーティストやクリエイターパスを作ればいいんじゃない。あ、その意味でも城崎にある「城崎国際アートセンター(注8)」って重要だね。稽古の後に毎日外湯に入りにいって、身体を癒したり、会話を楽しんだりするのがセットになってるんだよね。

石川琢也:
そうだね。城崎は自治体含めて観光と芸術の連携がほんとに素晴らしい。クリエイションには場所だけじゃなく、美味しいご飯と良いお湯、そして良いコーディネーターが作品の質を高めるのは間違いないと思う。料理屋も多く、どのエリアにも銭湯がある京都は制作環境としてまだまだ余白があるのかもしれないね。





保存食を扱うお店で議論も熟した、京都アートの未来を考える。



その後一行は、縁のある「保存食lab」へ。議題はついにアートの未来!?それぞれの立場から見える京都のアートシーンの課題とは?酔いが進んだ3人の、隠れた本音がようやくチラホラ。


住宅街に佇む保存食lab


石川琢也:
昼間に巡ったルートでも、徒歩やバスだったら会話にどんな変化があるのか気になるな。歩くから見える景色があるし、自転車だったから色々見逃しているだろうから。

松本花音:
自転車に乗っていると通りの名前は覚えられるけどね。道と道のつながりや位置関係を実感できる。「ものや(注9)」の櫻井さんも言っていたけど、ものやと花屋の「みたて(注10)」さんが近いのは知らなかった。そもそも行ってみたいと思うお店が京都の端のほうに集中していたりもするから、いろんなマップがあればとも思ったり。

石川琢也:
誰かの視点でのマップとかね。今日の話はまさに我々の視点のマップとも言えますね。でも、もうちょっとここの作品が良いとかあの作品が良いとかという話しをしたかったな。

松本花音:
そうだね。場所と自分のプロジェクトに紐付けた話とかはもっとできたかもですね。

石川琢也:
まぁでも、京都は色んな視点で巡ることができる街だよね。

ジュリエット・礼子・ナップ:
今日みたいにピンポイントに訪れた場所であっても、その周辺に何かしら気になるお店とかが潜んでいるのが京都。

石川琢也:
アンテナをビンビンにはってなくても偶発的で面白い出会いが生活の周縁に結構あるかも。例えば、先日ロームシアター京都での観劇後に東山にある中華料理屋の「東北家」に行ったら、知り合いがいて、思いがけず「次どこ行く?」ってなったり、そういうのが結構ある。

松本花音:
東北家は、実はアート界隈のハブ的スポットかもしれない。音楽も美術も演劇も、あらゆる領域の人がいる。深夜までやってるから現場の後に行きやすいんだよね。


ジュリエット・礼子・ナップ:
私は「京都芸術センター(注11)」にインターンで来たことで、そこで知り合った縁からアーティストの池田亮司さんのスタジオで働くことになって、京都に引っ越してきました。公共施設と個人アーティストの両方の現場で働いてみて、それぞれのサイドから見えて良かったです。またアーティストにもよると思いますが、舞台か音楽か美術とかによってスケジュールや企画のスピードの違いもありますよね。

松本花音:
ロームシアター京都の事業課では、毎月あらゆるジャンルの複数の本番をやりながら、その合間に企画を立てたり同時並行でいくつもの事業を回すことが前提。チーム全員でたくさんの案件を回している感じ。

ジュリエット・礼子・ナップ:
KEXも、本番をやりながら次の年のことも企画しています。でも1年サイクルだね。

松本花音:
組織体制や事業計画次第でもタイムスパンが全然違うよね。

石川琢也:
美術と演劇は同じジャンルであっても事業の違いによって考える時間もその射程も結構違うんだね。

ジュリエット・礼子・ナップ:
でも、それぞれが違うからこそジャンルを混ぜたり、他の事業と協働する面白さがあるよね。

松本花音:
それと、一概に混ぜるといっても、どう混ぜるか、誰と協働するかが重要だよね。単純にジャンルの違うもの同士を混ぜるだけで良いというわけではないし、一見アートとは関係のないようなあらゆる事柄も視野に入れて企画したっていい。ストリートカルチャーとか、その時世の中で読まれているニュースや書籍やSNSとか。面白いものをつくるためには、純粋なアートじゃないとだめ、と思いこまないことも時には必要だと思う。ただ、表現のコアになるコンセプトやプロジェクトのプライオリティをどういう事柄に設定するか、何を企画の肝にするかというプロデュースの芯をぶれさせないことが大事。

ジュリエット・礼子・ナップ:
だれでもアーティストってこと?

松本花音:
企画を考えるうえで、世の中にたくさん転がっているアウトプットや表現欲求に対して、いちいち大文字の「アート」に値するかどうかを問うことを絶対条件にしなくてもいいんじゃないかという意味合い。より社会的に開かれた豊かなコミュニケーションや場を生み出すためには、「アート」は人によって定義が異なるものだという前提で話をすすめるほうが建設的だと思う。もちろんアートとしての質を追究することも必要なんだけれど。
例えば、毎年10月にロームシアター京都の中庭「ローム・スクエア」を会場に開催している「OKAZAKI PARK STAGE」という屋外の企画は、地域住民のステージからアーティストのライブや公演、映画上映、焚き火まで、様々な催しを数週間にわたって開催するという事業で、「アート」の意味を拡張的に捉えた企画の一例としてあげられると思う。
今年は、普段は建設や土木の材料として使う小さい砕石を積み上げてつくられた「石ころの庭」という公共空間を建築家の岩瀬諒子さんにデザインしていただき、そこを会場に、「GOU/郷」という野外ライブ企画をギャラリー&ショップの「VOU/棒(注12)(以下VOU)」の川良謙太さんとの共同企画で開催しました。京都のカルチャーやムーブメントを同時代性かつ独自性を持って紹介しているVOUやその仲間たちと協働することで、こういうパーティのようなロームシアター京都だけでは作り得ない新しい集まりや、中庭の場としての可能性を生み出せたと思う。こういう場づくりやイベントプロデュースとかは、異なるジャンルやそこに関わる人たちをかけ合わせてこそ面白くなる企画の一例と言えるかもしれないですね。

OKAZAKI PARK STAGE 2022「GOU/郷」志人パフォーマンス 撮影:井上嘉和

OKAZAKI PARK STAGE 2022「GOU/郷」
ギャラリー&ショップVOU/棒とロームシアター京都がタッグを組み、プロデュースした野外音楽イベント。荒井優作、威力、志人、TOYOMU、7FO、NEW MANUKE、よいとせや(下村よう子、藤本喜代珠、藤田八起)、岡崎レコードを聴く会サークルが出演した。
https://rohmtheatrekyoto.jp/event/96644/



石川琢也:
京都芸術大学(瓜生山学園)の通信学科のスクリーニングの風景が好きなんですよね。高齢の方含めて、さまざまな方が大学に学びに来ている。普段は若い学生たちがいる場所に、たまにスクリーニングでの学びの人達がきている。その風景の違いがとてもいいんですよね。カリキュラムの一環で行う通信学科の展覧会は、クオリティが高いように感じるけど、野心みたいなものより、作る喜びが勝っているように感じる。作品を通じた交流があり、クリエイション自体がその人の幸せに寄与していることもあると思う。そこに芸術の意味が垣間見えるときがあります。一方で、プレイヤーとしての自分は世の中を驚かせるような企画や制作をしたいという野心もある。

ジュリエット・礼子・ナップ:
私もそう。国際的なシーンでみたときに、これはすごい新しい表現だ、面白いんだというクオリティをKEXではプロデュースしたい。


石川琢也:
フィルターバブルじゃないけど、興味があるものだけを求めて、興味がない物事へは、コスパが悪いから拒絶する学生も多い気がする。だから、もっと偶発的なアートとの出会いを生み出すデザインがあっても良いと思う。それこそ、散歩のデザインとかね。自分が選んだものとは異なる偶発的な出会い、強制的にチャクラが開かれる感覚というか。

ジュリエット・礼子・ナップ:
少し違うかもしれませんが、KEXでも、実験的な作品を紹介しているので人によっては少しとっかかりにくいこともあるかもしれない。たまにプログラムに、もっと分かりやすい演目を入れてみたらどうですか?という声もありますが、それでコンテンツを変えてしまうとKEXのコアになっている目的とはずれてしまうと思います。KEXはフェスティバルなので、複数の作品を短い期間で見ることができるのが特徴で、観客は1演目だけではなく、その中の3作品ぐらいを見比べて欲しいと思っています。セットで買うとお得な3演目券も人気です。その中で面白いと思う作品があるかもしれないし、そうでもない作品もあるかもしれない、また想像していたものと全然違うものなど、そこでそういう偶発的な出会いがあることがいいと思っています。KEXはプラットフォームとして、どうやって観客と作品やアーティストをつなげることができるのか、色んな方法をいつも考えています。

松本花音:
だから、表に出やすいキュレーターやプロデューサーだけでなく、いわゆる裏方として働くアートコーディネーターや制作ってめちゃくちゃ重要な存在なんだよね。具体的に細かいところまでアーティストと鑑賞者を実際につなぐ役割を担うわけだから。契約実務や公演・展覧会の枠組みを整えることから始まって、創作現場や実際の展示・公演をどう運営するか、宣伝をどうするか、収支をどう組むかとか、あらゆることの詳細について、アーティストの意向を組みながら枠組みに合わせてコントロールしたり調整したりしている。あまり知られていないけれど、そうしたスキルや人材について可視化していくために、業務プロセスを整えていったり、専門人材を育成したりしていくこと、それが私たちのようなパブリックの任務の一つでもあると思う。

ジュリエット・礼子・ナップ:
それこそ現場を知っていて、現実にできるかどうか判断できる人ですもんね。

石川琢也:
アートコーディネーターの重要性とその人材をサポートする制度なども行政側にも共有したいですね。それと、今日話したアートマネジメントや現場のリアルも多くの人に知ってもらいたいな。そうした技術や知は広く共有可能なものであると思うので。




鼎談を通じて感じる、より良いクリエイションに必要なことは響き合い。それは、アートに携わる人間だけの話ではなく、アートを鑑賞する人間も含めた多層的な交わりのこと。また、様々な芸術の実践を層として積み重ねていくための仕組みづくりも不可欠。京都だからではなく、京都から進められることは?小さな文化都市から踏み出す新しい一歩に期待です。




前編はこちら>>> https://kyoto-artbox.jp/column/63534

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アート、デザイン、湯についてもっと知るための注釈

注1)
バンド・空間現代によるスタジオ/ライブハウス。スタジオとして、空間現代の楽曲制作・録音等を日々行い、ライブ会場として、国内外様々なアーティストの招聘プログラムを展開している。
https://www.instagram.com/soto_kyoto/

※空間現代は、2006年、野口順哉(Gt,Vo)、古谷野慶輔(Ba)、山田英晶(Dr)の3人によって結成されたスリーピースバンド。
http://kukangendai.com/

注2)浄土複合
京都市左京区の浄土寺エリアにある制作・発表・批評が交差する複合的なアートスペース。2019年にオープン(2021年、旧スペース解体のため同エリアに移転)。ライティングや編集のスクールおよびシェアスタジオpara-jodoの運営に取り組んでいる。
https://jodofukugoh.com/

注3)山口情報芸術センター[YCAM]
山口県山口市中園町にある図書館・ホール・美術館などの複合施設。おもにコンピューターや映像を使った芸術であるメディアアートに関する企画展を行うほか、その制作施設、上演ホールなどもある。
https://www.ycam.jp/

注4)湯田温泉
山口県山口市にある温泉。山口県を代表する防長四湯と呼称される温泉の一つ。

注5)銀座湯
突然の廃業から6年を経た2020年2月にリニューアルして復活した左京区の銭湯。京都大学の南側に位置する。月2回の生糀風呂があるのが特徴。また、メガネ洗浄サービスも無料で提供している。
https://twitter.com/ij3JocmFvs5aJHJ

注6)サウナの梅湯
京都の五条に位置する、銭湯文化を守る聖地的存在。銭湯継業の専門集団「ゆとなみ社」による1号店。
https://youkiyu.stores.jp/news/5ef5a8590d5e380a6ea4219a

注7)源湯
北野天満宮のほど近くにある古民家銭湯。お風呂上がりには畳の「くつろぎスペース」でのんびりできる。
https://youkiyu.stores.jp/news/5ef5a8590d5e380a6ea4219a

注8)城崎国際アートセンター
日本最大級の舞台芸術を中心としたアーティスト・イン・レジデンス施設。関西有数の温泉街である城崎温泉に位置する旧・城崎大会議館をリニューアルして2014年にオープンした。ホール、6つのスタジオ、最大22名が宿泊可能なレジデンスやキッチンなどで構成され、アーティストが城崎のまちに暮らすように滞在し、創作に集中することできる。
http://kiac.jp/

注9)ものや
京都市北区に実店舗を構え、買い集めた古道具や価値を見出された蒐集物、制作途中で生まれたモノなど様々な物を取り扱っている。またそれらの蒐集物を新しい発想の種とし、空間構成や什器/家具プロダクトなどの設計業務を行うスタジオを同時に運営している。
https://www.studiomonoya.com/

注10)みたて
京都市北区紫竹にある花屋。植物を通した季節の楽しみ方を提案している。
https://www.hanaya-mitate.com/


注11)京都芸術センター
元明倫小学校の校舎を活かし、2000年にオープンした複合文化施設。展覧会や舞台公演などのアートイベント開催だけでなく、小学校当時の教室を利用したカフェや図書室、情報コーナーが利用可能。
https://www.kac.or.jp/

注12)VOU/棒
2015年開業。元印刷所の3階建ビルを改装したギャラリーとショップを併設するオルタナティブスペース。京都の中心地・四条河原町から住宅街に入った場所に位置する。ギャラリーでは、ボーダーレスな企画展を定期的に開催し、ショップでは、アパレル・ZINE・陶器などをセレクトし、VOUのオリジナルプロダクトを作り手たちと共同制作し販売している。また、トークやポップアップイベントなども企画し、アーティストとファンが交流できる場を設けている。あらゆるカルチャーをビル内で複合的に交差させ、街へ向けた発信拠点として機能している。
http://voukyoto.com/



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ジュリエット・礼子・ナップ 
KYOTO EXPERIMENT共同ディレクター
イギリス・オックスフォード大学英語英文学科卒業。京都芸術センター、SPAC静岡県舞台芸術センターでインターンやボランティアとして活動した後、Ryoji Ikeda Studio Kyotoでコミュニケーションマネージャー、音楽及びパフォーマンスのプロジェクトマネージャーを担当。2017年からKYOTO EXPERIMENTに所属し、広報とプログラムディレクターのアシスタントを務めた。

石川琢也 
研究者 / エクスペリエンスデザイナー / アートディレクター
京都芸術大学情報デザイン学科クロステックデザインコース専任講師。1984年、和歌山県生まれ。UI・UXデザインを職務とした後、2013年に情報科学芸術大学院大学(IAMAS)に進学。2016年山口情報芸術センター[YCAM]エデュケーターに着任し、『RADLOCAL』などの教育プログラム、地域リサーチに関するプロジェクト、『Boombox Trip』『AIDJ vs HumanDJ』といった音楽プログラムの企画制作を担当。2020年より現職。日野浩志郎『GEIST』プロデュースをはじめ、音楽イベントの企画制作、文化政策の研究を行う。近著「新世代エディターズファイル 越境する編集-デジタルからコミュニティ、行政まで」

松本花音
ロームシアター京都の広報・事業企画
横浜市出身。早稲田大学卒業後、株式会社リクルートメディアコミュニケーションズにて広告制作およびメディア設計に従事。舞台芸術業界に転向し、「国際舞台芸術祭フェスティバル/トーキョー」制作・広報チーフ(2011-13年)、パフォーミングアーツ制作会社勤務を経て2015年より現職。劇場・自主事業広報と、「プレイ!シアター in Summer」「OKAZAKI PARK STAGE」の企画統括、「‟いま”を考えるトークシリーズ」企画・司会、WEBマガジン「Spin-Off」および「機関誌ASSEMBLY」編集などを担当。
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