2024.01.20

【ART WALK KYOTO_1】ウォーホル・ウォーキング ウォーホルが感じた京都を 歩く

2022年度に実施された「文化庁移転記念事業をめぐる『ART WALK KYOTO』(主催:京都市)。
同事業で読み物としてお届けしたおすすめコースを再掲載しています。



京都市京セラ美術館で始まる「アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO」展。京都で単独開催される初のウォーホル展であり、日本初公開の100点を含む約200点の作品が展示されます。今回紹介する展覧会の連動企画「ウォーホル・ウォーキング」は、アンディ・ウォーホルが実際に訪れた京都の名所や、サテライトイベントを巡ることで、京都散策をしながらアートを身近に楽しむことができるというもの。本展並びに「ウォーホル・ウォーキング」 のプロデュースを手がけるソニー・ミュージックエンタテインメントの中村勉さんに、その魅力について語っていただきました。


中村勉

 
アンディ・ウォーホル・キョウト / ウォーホル・ウォーキング企画プロデューサー



今回紹介するコース



京都駅ビル駅前広場
京都駅ビル駅前広場に、『ウォーホル・ボックス』と名付けられた全長7mの巨大コンテナトレーラーが登場。京都タワーを前にした絶好のフォトスポットに。合わせて設置されているウォーホル・ウォーキングBOXにての屋外オーディオガイドをQRコードから無料でお取り頂けます。

蓮華王院 三十三間堂
ウォーホルが生前二回にわたる京都での旅で共に訪れた三十三間堂では、ウォーホルによる千手観音菩薩立像のスケッチを特別展示。個人蔵のため世に出ていなかった貴重なものが、今回初公開展示される。

音羽山 清水寺
展覧会にて展示されている清水寺三重塔のスケッチを元に、当時、ウォーホルがどこから清水の景色を眺めていたのかをリサーチ。実際の風景とスケッチを見比べることで、ウォーホルの視点に重ね合わせながら、当時の彼の気持ちに想いを馳せることができるスポット。

祇園白川筋
ウォーホルが二回目の来日の際に祇園白川筋の石畳を歩いた写真が残されており、ウォーホル・ウォーキングのキービジュアルにもなっている。背後に映る石碑を目印に、当時の祇園の様子を垣間見ることができる。

京都市京セラ美術館
「アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO」にて、100点以上の日本初公開作品を一挙公開。東山キューブロビーではインスタレーション『Word Logs -ANDY WARHOL KYOTO-』(2022年9月17日~2023年2月12日)を開催。

MtK Contemporary Art
アンディ・ウォーホルに影響を受けた作家4人によるポップアートを展示する「Inspired by ANDY WARHOL KYOTO」(2022年9月17日〜10月9日)を入場無料で開催。

ZENBI -鍵善良房- KAGIZEN ART MUSEUM
サテライトイベントとして、ウォーホルの京都旅の写真、約100点を見られる原榮三郎による写真展「原榮三郎が撮った京都 Warhol in Kyoto 1974」(2022年9月17日〜2月12日)を開催。



ウォーホルの感性に大きな影響を与えた京都



―ウォーホル・ウォーキングでは、いくつものロケーションポイントが設置されていますね。

ウォーホルが実際に足を運んだエリアである蓮華王院 三十三間堂や音羽山 清水寺、祇園の白川筋のほかに、フォトスポットやサテライト展覧会のあるポイントがあります。

京都駅ビル駅前広場に、『ウォーホル・ボックス』と名付けられた全長7mの巨大コンテナトレーラーが登場。



―日本文化に刺激を受けたと言われるアンディ・ウォーホルですが、1956年と74年の2回に渡って、京都を訪れているんですよね。

はい、その2回共に、三十三間堂を訪れています。「ウォーホルは、同じモチーフを繰り返すリピートという概念を、三十三間堂にある1001体の千手観音菩薩立像からヒントを得たと思われる」と言った研究の結果もあります。

『アンディ・ウォーホル・キョウト特別展示at 妙法院門跡三十三間堂』


ウォーホルによる千手観音菩薩立像のスケッチ(1956年)と拝観時の様子を収めたカメラマン原榮三郎撮影による貴重な写真(1974年)を 日本初公開 特別展示。


―ウォーホルが得意とするあの技法が、千手観音にインスパイアされた説があるのは驚きです。

三十三間堂で展示されるウォールペーパーと千手観音菩薩立像を組み合わせたポスターも、牛と千手観音がリピートという概念を共通項に制作されています。この対比は京都でしかできないものです。更に今回、京都でウォーホルによる千手観音のスケッチを所有されている方と出会いまして、ご本人にお願いをして、初めて公の場に展示させていただくことになりました。


―ウォーホルは、京都散策をしながら数多くのスケッチを残しているんですね。

ウォーホルは京都の街を精力的に巡り、そこで観た神社仏閣や京都の人々の生活を目の当たりにし、多くのスケッチを残しました。美術館では、当時のスケッチが展示されていることも見どころです。今回、私たちは清水寺三重塔のスケッチをウォーホルがどこから描いたのか、スタッフと清水寺へ何度も足を運び、恐らくここだという場所を特定しました。音羽の滝へ行く道で、よくいろんな方々がスケッチしているスポット。ここから描いたと言い切れるものではないのですが、当時の彼の気持ちに想いを馳せるにぴったりの場所です。

『1956年、初めての京都の旅で清水寺三重塔をスケッチしたと思われるスポットを巡るウォーキング at 音羽山 清水寺』


実際の風景とスケッチを見比べることで、ウォーホルの視点に重ね合わせながら、当時の彼の気持ちに想いを馳せることができるスポット。


―地道なリサーチを重ねたのですね。

アンディ・ウォーホル・キョウト展はコロナで2年延期になってしまったのですが、唯一よかったことは、リサーチする時間が増えたことです。まさにウォーホルの足跡を辿るように、僕たち自身が京都を歩き回り、いろんな京都の人たちとお話ができて、初めて知ったことがたくさんあります。ウォーホルと京都、その関係について根を張って深掘りできたおかげで、今回の企画につながりました。


―たしかに、ウォーホル自身も京都中を巡っていたのだなというのが、残っている写真からも分かります。祇園での様子も興味深いですね。

白川筋を歩くウォーホル  撮影:原榮三郎 1974年 Ⓒ HARA EIZABURO


白川界隈を歩いているウォーホルの写真がたくさんあるのですが、これなんかまるでビートルズのアビーロードみたいだなと思っていて。ビートルズのマネをして横断歩道で写真を撮るみたいに、ぜひこの石碑の前でウォーホルと同じように撮影してもらえたらうれしいですね。


©原栄三郎 / HARA EIZABURO



僕も実際にウォーホル・ウォーキングを何度か歩いてみたんです。京都駅からスタートして岡崎でゴールと決めて、全ての箇所を全部まわると約9kmになるんですね。


―トータルだとけっこうな距離ですね。

そう、ポイントごとに楽しみがあるので皆ワイワイ歩いていけるのですが、途中の清水の坂でみんな無口になってきます(笑)。


スポットに設置されているウォーホル・ウォーキングBOXにての屋外オーディオガイドをQRコードから無料でお取り頂けます。


―中村さんのように全ポイントを回っても良いし、美術館のついでにどこかひとつ寄ってみる、みたいな方法でも良いんですよね。

もちろんです。サテライトイベントも充実していて、祇園のZENBI-鍵善良房-KAGIZEN ART MUSEUMでは、原榮三郎さんが撮ったウォーホルの京都旅の写真、約100点を見られる展覧会「原榮三郎が撮った京都 Warhol in Kyoto 1974」が開催されますし、岡崎のMtK Contemporary Artでは、アンディ・ウォーホルに影響を受けた作家4人によるポップアートを展示する「Inspired by ANDY WARHOL KYOTO」が入場無料で開催されています。若い世代の人たちにも、ウォーホルを新しい視点から捉えてもらえるかなと思っています。

ZENBI -鍵善良房- KAGIZEN ART MUSEUMでは、ウォーホルの京都旅の写真、約100点を見られる原榮三郎による写真展「原榮三郎が撮った京都 Warhol in Kyoto 1974」(9月17日~2月12日)が開催。


MtK Contemporary Artでは、アンディ・ウォーホルに影響を受けた作家4人によるポップアートを展示する「Inspired by ANDY WARHOL KYOTO」(9月17日~10月9日)が入場無料で開催。





アートが美術館を飛び出し、街とつながる



―ウォーホル展とウォーホル・ウォーキングの連携というところが今回の鍵でもありますよね。

今回、「インサイドミュージアム/アウトサイドミュージアム」というテーマを掲げています。美術館の中はもちろん、街に飛び出したときにもさまざまな場所でアートに触れられる、そんな企画を考えた末に、今回のウォーホル・ウォーキングが生まれました。


―そこでいうと、企画されている屋内・屋外兼用のオーディオガイドは、まさに「インサイドミュージアム/アウトサイドミュージアム」というテーマにも繋がった新しい試みです。具体的にどういったものか教えてください。

今展覧会に合わせて、美術館内だけで無く京都市内でもご活用頂けるオーディオガイドを作りました。美術館に設置したパネルにあるQRコードから、チケット購入者は無料でお使い頂けます。展示解説はもちろんのこと、弊社はソニーミュージックというサウンド・エンタテインメントの会社なので、専用の音楽チャンネルもそこに入れ込みました。展覧会に合わせた楽曲をジャズとロックとアンビエットの3曲作ったので、音楽を聴きながら作品を楽しんでもらい、視覚と聴覚を融合させた新しいアートを体験してもらえたらと思っています。

京都市京セラ美術館で始まる「アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO」展。京都で単独開催される初のウォーホル展であり、日本初公開の100点を含む約200点の作品が展示されます。
©來田猛


―中村さんは以前京都に住んでいらしたんですよね?

学生時代の7年間、京都に住んでいました。1980~90年代の京都では音楽シーンが充実していて。KYOTO JAZZ MASSIVEの沖野さんやMONDO GROSSOの大沢さんなど、アンテナを張った感度の高い人たちがシーンを作っていました。普段話せない人たちとクラブで出会えたり、自分の想いを話せたりしたんです。そうやって勝手にウォーキングしていたんですよね(笑)。


―伝統文化だけでなく最先端のサブカルチャーまで、多種多様なアートが混ざり合っていることも京都の街の魅力だと感じます。

いまはコロナの状況を経て、これまでの様に簡単に旅をすること自体が貴重な機会や時間になってきていると思います。そうやってわざわざ京都に足を運んだときに、美術館やお寺に行って終わりではもったいない。京都とウォーホルが混ざり合うことで、もっと身近に、もっと深く、街とアートを感じてもらいたいと思っています。


―身近にアートを感じてもらうというのは、ウォーホルの考え方にもリンクしていますね。

そのとおりです。ウォーホルには、同じ作品を何百枚とプリントするというアプローチがあります。それまでは金持ちのパトロンが画家を雇って、自分の肖像画を描かせて、自分の部屋に飾ってという状況だった頃の形から、“いろんな人とアートを自由に楽しもうよ”、“別にアートってそんな一部の人の為だけの高貴なものではないよ”というメッセージを伝えた先駆者の一人がウォーホルだと思います。


―京都の街とアートをつなげて、アートを気軽にシェアすることへの障壁をなくしていこうということですね。

オーディオガイドの音楽を聴くだけの方もおられると思いますが、更に作品そのものにも興味を持って、展示解説も聞いてみようという人が出てくれば、その人の扉を少し開けることができたことになるのかなと思っています。アートとの距離感は人それぞれですが、今後も他のアートへの接し方も提案していけたらなと思っています。



開催概要


 名 称 「アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO」
 会 期  2022年9月17日(土)~2023年2月12日(日)





京都市京セラ美術館 東山キューブロビーでは、アンディ・ウォーホル・キョウトの鑑賞者の言葉からアートが生成されるインスタレーション『Word Logs -ANDY WARHOL KYOTO-』(2022年9月17日~2023年2月12日)が開催。








中村 勉
アンディ・ウォーホル・キョウト / ウォーホル・ウォーキング企画プロデューサー
ソニー・ミュージックエンタテインメント コーポレートビジネスマーケティンググループ所属。
1967年生まれ。東京在住、学生時代から約7年を京都で過ごす。エンタテインメントやテクノロジーの領域を取り込んだ新たなエキシビジョンの有り方を探求し、これまで「デヴィッド・ボウイ・イズ」「ダブルファンタジー」等の数々の展覧会に関わる。「アンディ・ウォーホル・キョウト」では美術館と京都の街が連動一体化出来る様な形を目指す。


 
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