5. コックリさん de ルンバ
掃除機のルンバを10円玉に見立て、会場を彷徨わせます。予め掃除ブラシのパーツを外して(去勢して)あるので、清掃機能は果たさないにも関わらず、存在意義を失ったまま動き続けます。「こっくりさん」の暴走を思わせる無制動に自律する様子を観衆に示すことで「こっくりさん」の集団ヒステリーとしての病理的解釈を引用し、得体の知れない力を目の当たりにしてざわざわとした不安で心をかき乱すようなヒステリーの疑似体験とその状態からの脱却を通過儀礼的に示す作品です。
前回「Madness, Civilisation and I」展においては、構造主義的な手法を背景に援用しつつ、自己と社会制度とオカルティズムの関係性を見事に作品へと落とし込んでみせましたが、今回の個展をその構造主義的な見地に倣って解釈するならば、世界を構築する「文明」と「狂気」の二大要素の対峙関係の間にあってすり減らされた「個人」である久保自身が「Hysterical Complex」を発症し、「久保ガエタン」としてのセルフイメージが分裂を起こして「ローラ」というドッペルゲンガーを形成し、その両者を治癒するために試されたありとあらゆる装置をインスタレーション展開する、、、という、社会構造から久保の極めて個人的な領域にまで一息に沈潜していく構図が見えてきます。「Complex」という単語が本来は複合を意味するように、精神医学でも感情複合の意とされますが、本展覧会で久保が罹った「Hysterical Complex」も、久保が抱えている社会や見えないエネルギーに対する恐怖や不安といった複合的な感情や記憶の塊が、耐えきれずに過剰反応を起こして病的に現れたその顛末なのです。また「Hysterical Complex」とは、精神的な免疫機能によって作品を内から吐き出し続け、複合的なインスタレーションとしたこの展覧会の全容をも重ねて意味するのだと言えます。つきましては本状をご覧の上、展覧会をご高覧賜りますよう何卒宜しくお願い申し上げます。