【作家】中沢新一、服部滋樹、鞍田崇
『〈民藝〉のレッスン―つたなさの技法』(フィルムアート社、2012年1月刊行)は、
異色の〈民藝〉入門だ。民藝にフォーカスしながらも、ほとんど解説らしいものがない。
同書のねらいは、過去の民藝運動をなぞることではなく、その思想的エッセンスを抽出しつつ、時代が〈民藝〉に寄せる共感の内実をうかがい、なぜいま〈民藝〉なのか問うことにあった。京都・MEDIA SHOPでは、同書の意図を引き継ぎ、一年近くにわたって、デザイン、アート、ダンス、工芸、骨董、建築、農学といった、さまざまなジャンルのゲストとともに、編者・鞍田崇によるレクチャーシリーズを行ってきた。本企画は、このシリーズのエピローグとして、これら一連の試みの総括的な議論を行なおうというものである。
テーマは、「〈民藝〉の野生と僕らの時代」。
言うまでもなく、一般に民藝は手仕事による生活道具を意味し、その素材や制作プロセスは地域の自然条件と密接に関わる。昨今の〈民藝〉ブームが、2000年以降の人々の環境意識の高まりと連動し、自然や風土に即した暮らしが求められる中で台頭してきたのは単なる偶然ではないだろう。しかしながら、1世紀近くにわたる民藝の歩みを顧みると、自然と暮らしの関わりについて深く検証がおこなわれることがないまま、時を経てきたようにも思われる。そこを問いなおすのが、本企画のメイントピックだ。
ゲストは、人類学者の中沢新一とデザイナーの服部滋樹。中沢は『〈民藝〉のレッスン』の中で、民藝を、3・11後の日本の「ひとつの灯台」と位置づけるとともに、近著『野生の科学』では、農具を例に、民藝の背景として、商品交換とは異なる「贈与的世界」に注目している。一方、服部は『〈民藝〉のレッスン』に寄稿した論考で、〈民藝〉の中に時代を生きぬくサヴァイヴァビリティを見いだし、レクチャーシリーズのプロローグとなった鞍田とのトークセッションでは、体感・体験のレベルからそれをより広く展開しようと試みた。
一人一人の感性を洗練し、自然と暮らしの接続を再構成することが、いま求められている。〈民藝〉という言葉=思想をシェアすることが、そのためにどんな解を与えてくれるのか、そもそもそこから私たちはどういう暮らしの可能性を紡ぎだせるのか、二つの対談を通して、参加者の皆さんとともに考えていく場にしたい。
中沢新一 NAKAZAWA Shinichi
1950年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。現在、明治大学野生の科学研究所所長。人類学者・思想家。著書に『日本の大転換』、『アースダイバー』、『カイエ・ソバージュ』、『チベットのモーツァルト』、『森のバロック』、『哲学の東北』など多数。近著に『野生の科学』、『大阪アースダイバー』がある。
服部滋樹 HATTORI Shigeki
1970年生まれ。graf代表。デザイナー・クリエイティブディレクター。現在、京都造形芸術大学情報デザイン学科教授。1998年、大阪・南堀江にショールーム「graf」をオープン。家具、グラフィック、プロダクトデザイン、アートから食まで、既存の枠組みにとらわれない自由なデザイン展開で活躍中。
鞍田崇 KURATA Takashi
1970年生まれ。哲学者。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。現在、総合地球環境学研究所特任准教授。著書に『〈民藝〉のレッスン』『焼畑の環境学』(編著)、『地球環境学事典』(分担執筆)、絵本『たべることは つながること』『雰囲気の美学』(共訳)など。