HRDファインアートでは、6月10日から劉亦玲(リュウ・イリン)と辻元美穂による二人展「星、せせらぎ、セミ時雨」を開催いたします。
劉亦玲は1989年台湾・彰化生まれ。現在は京都市立芸術大学大学院美術研究科在学中。絵画をベースとしながら、不定形な支持体を用いたり、映像や立体作品と組み合わせたインスタレーションとして提示したりと、絵画の枠にとらわれない自由な制作を実践しています。劉の作品に登場するマンガのキャラクターのような生き物たちは、作家自身の分身的な存在であると同時に、彼女を取り巻く様々な「生命」、さらにはその生命たちの織りなす関係性までもが投影された存在でもあります。
辻元美穂は1994年大阪生まれ。大阪教育大学大学院教育学研究科修了。油彩の抽象表現を中心とした絵画制作に取り組んでいます。自然や生命の躍動を感じさせる緑やオレンジ、黄色などの明るい色彩と、厚塗りの油絵具の物質性を生かした表現が特徴で、近年は矩形ではない不定形の支持体も取り入れています。そこには、一見調和が取れているようでありながらも、数多くの矛盾や混乱、偶然をはらみ、単純化した整理や理解の届かない世界の「混沌(カオス)」そのものが表現されているようにも見えます。
本展は、自己と世界の関係性を作品制作を通じて見出そうと挑み続けている2人の作家による展覧会となります。出自や国も異なり、制作する作品も対照的でありながら、時代・世代の意識や感覚と真摯に向き合い制作を続ける若手女性作家の表現に是非ご注目ください。
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本展タイトルの「星、せせらぎ、セミ時雨」は、偶然にも劉と辻元の共通の愛読書であった池澤夏樹の小説『スティル・ライフ』の冒頭の文章から引用されています。
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アーティストからのメッセージ
よく廃棄されたモノや身の回りから出たカスを素材として取入れ、生きることの切なさと美しさを作品を通して表現している。捨てられたものと拾われたもの、価値のあるものとないもの、虚構と真実の境界線に触れてみる。 絵を描くことで自分と世界との距離を測り、価値の捉え方を模索しながら、納得できる生き方を探し続けていく。
心に、愛がいっぱいあるから、絵を描きたくなる。
愛しく想うモチーフを何気なく描写する行為は、目と手で世界を愛撫することに近いと感じ、そして粘土も絵の具も、私の体の延長だと気づいた。
止めたかった瞬間、止められないと分かり、燃え滓でも、残香でも、物質に焼き付けたいと思い制作している。初夏、そして盛夏、昼下がりの大雨の中でも、私の愛の跡を見に来てください。
(劉 亦玲)
今年に入ってから、ドローイングを元にした不定形のキャンバスを使って制作をはじめました。星のようにも鳥のようにも見える形。池や石、突然世界に空いた穴のようにも見える形。作品が見た人の生きる世界と繋がって、色々な姿になる。
それは各々の心によりそってくれる詩や、占いと似ているように思います。それでいて物質的で、心だけでなく私たちの身体が生きるこの世界に確かに存在する物。そんな作品を作りたいと思っています。
今回の展覧会のタイトル「星、せせらぎ、セミ時雨」の元になった、池澤夏樹さんの小説『スティル・ライフ』の冒頭文は、制作に迷った時に私をずっと励ましてくれた文章でした。今回ご一緒する劉さんと初めてお会いした日、彼女にとってもこの小説が特別なものだったと聞き、あまりの偶然にとても驚きました。
(辻元 美穂)