2021.12.15

LUCA_column 3 「一年の終わりに」



Photo by Ayaka Onishi


東の横浜では初雪が観測され、西では天王寺動物園の動物たちが凍えて縮こまっている。
今日は今年一番冷えこんだ日だった。

小さなクリスマスツリーを飾り、冷えた布団のなかに湯たんぽを入れる。
オレンジ色に光る間接照明の灯りを妙に温かく感じるようになり、ギターを弾く手元は寒さで覚束なくなる。
マグカップを両手で包み、お茶をすするのが至福の時となり、家族や大切な人たちと今年一年を労い感謝を伝えあう。

前回のコラム投稿からあっという間に時間が流れ、冬が来てしまったのだ。
ということは2021年がもうすぐ終わる。

2020年の10月に「姫沙羅の露(ひめしゃらのつゆ)」という歌を書いた。
世界がコロナウイルスに翻弄され、たくさんの人生が変わった。
夜空に夢という星が点在しているとしたら、人生を通してその星々を線で繋ぎ一つの美しい星座を描く私たち。
この時期、私の空に輝く星がひととき消えてしまったようだった。
闇の中をとぼとぼと一人歩いているうちに、その闇に疲れ切った私はこの歌を書いたのだった。

一度植えた種の花は必ず咲き、
一度抱いた夢の炎が消えることはない。
それまで静かに息をしていよう。
うちに秘めた輝きが満をじして放たれるその時まで。

自分への慰めでもあり、意思表示でもあった。






一ヶ月後、私は飛行機と船を乗り継いで日本の端っこに一人旅へ出た。
海と人と馬と、満点の星空に包まれて、自分の在りたい世界はどんな世界だろうと、緩やかな流れのなかぐっと身体の奥底から考えるような時間だった。

それは優しさや純粋な愛情が、真っ直ぐそのままであれる世界。
優しい気持ちが弱さと言われない世界。
そんな世界に私はいたいのだ、と来たる新たな時代に向けて答えを出すように、旅から帰った私はすぐに「光の波 瞬く間に」という歌をメモのようの残した。






2020年をまとめて表したようなこの2曲に加えて、6年越しに発表することのできた民謡集「摘んだ花束 小束になして」。それらを携え、世の中の流れに振り落とされないようしっかりつかまった小舟は、私を乗せて2021年という大海原へと入った。






2021年は、あっという間だった。

コロナウィルスという得体の知れない存在に制限される世界に歩きたい道はどこにも見つからず、森や林、川や湖、岩場や砂漠、海、空、ビルの間、線のない道なき道を歩いた。
未知の未来に向かって歩くそのプロセスはもちろん辛いだけでなく、喜びもあった。

例えば海外のアーティストとコラボレーションをする機会がぐっと増えたこと。
各々いる場所から録音をし、データを送り合い、zoomミーティングを重ねに重ねて遠隔で一つの作品を創り上げていく。直接顔を合わせ、同じ空間で音を出すことは叶わないものの、そのプロセスに今までなかったタイプの軽やかさを感じた。

コロナウイルスで遠くなったように思えた外との距離も、可能性の広がる気づきの多い出来事であった。

でもやはり外に出ていけない分、必然的に日本にいる時間が増え(こんなにも断続的に日本にいるのは16歳ぶり)苦手意識を持っていた、一つの場所に根を下ろし、土地としっかりとコミットすることに嫌でも向き合った。

湧き水がこんこんと湧き出るように命がそこで生まれては循環の一部となり、最後は土へと還っていく。今まで当たり前のように参加していた生命の、地球の循環がより鮮明に私のなかで輝き始めたのだった。

すると長らくプロジェクトとして取り組んでいる民謡との関係性に深みが増し、その世界の魅力の沼にどんどんとハマっていった。
日本各地に伝わる民謡と出会うことによって、土地に根付く様々な物語を追体験できる。
喜びや悲しさ、寂しさや勇気、すがすがしい心意気。自然への畏敬の念。祈り。
その当時の風が時空を超えて私を包み、そしてときに私を超えて駆け抜けていくのだ。
すると人生をかけて守りたい存在にも気づき始めた。

今こうして振り返ると、自分と向き合えば向き合うほどに、内の深さが増せば増すほどに、世界は両手を広げて迎えてくれる、扉が大きく開くのだと実感する一年だった。

逆をいうと、世界が混沌とすればするほどに、己が問われるのではないか。それを10年前の東日本大震災ぶりに痛感した。
一人一人がちゃんと自分と向き合えば、思考が変わり、思考が変われば行動は変わり、その重なりで世界は調和を取り戻せるんじゃないかな。

この気付きはまさに人生のギフトだったように思う。

今私を乗せた小舟は船となり、行先を見据えゆったりと波のリズムに揺られている。

色とりどりのご縁が、輝きながら朝日の昇る地平線の向こうに向かって一本一本伸びていく。
おそらくいづれは先で出会い、紡がれ、一つの大きな未来へとなるのだろう。
それは美しい音色を奏で、優しく力強く光った未来なのだと思う。


最後にこの歌を。

「Solstice」






それでは皆さま、良いお年を!

愛と一年の感謝を込めて。





LUCA
1994年カリフォルニア州バークレー生まれ。シンガーソングライター。
2015年にファースアルバムとして「So I began」を発表。同時に自身のオリジナル楽曲制作とは別に日本各地に伝わる民謡を唄い繋ぐことを始める。最新作は写真家・Miho Kajiokaの写真を迎えた民謡集「摘んだ花束 小束になして」。
ソロ名義の活動の他、坂本龍一、There is a fox、haruka nakamura、似非animal、 ダンサー苳英里香らとコラボレーションも重ねる。
ナレーションや翻訳など音楽の垣根を越えて活動は多岐に渡り、カリフォルニア、デンマーク、パリ、東京を経て、現在は京都を拠点に活動中。

Profile photo by Yokoe Misaki
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