KAC TRIAL PROJECT / Co-Program 2017 カテゴリーA「共同制作」採択企画
小さなオペラ『木の匙』は、1組の男女が出会い、結婚してやがて家族となる過程を、二人のモノローグによって描き出す作品です。古典的なオペラで題材となるような男女の愛憎劇ではなく、穏やかな日常風景や、そこから浮かび上がってくる夫婦の心情に焦点を当てます。
今回の演出家である乃村健一は、モノオペラとミニオペラ『人間の声』『消えた男の日記』(京都芸術センター、2014年)、『魔笛』(伊勢市生涯学習センターいせトピア、2014年)、『泥棒とオールドミス』(津リージョンプラザ、2015年)、『ラ・ボエーム』(ロームシアター京都、2017年)などで演出の経験を積むなかで、これから若い世代はどのようなオペラ作品を作っていくべきなのか、と考えるようになったと言います。貴族が登場したり外国語で歌われるオペラは、確かに今でも多くの観客を惹きつけています。ただ、日本に住む私たちとは時代設定も言語も異なる作品を、そのまま上演し続けるだけで良いのか。オペラの手法を踏襲しつつ、現代の感覚を反映した新しい作品を生み出せないか――そのような思いから今回の企画が生まれました。
本作品は、ピアノ・ソプラノ・バリトンというシンプルな編成の日本語の歌曲から構成されます。寺山修司作詞・中田喜直作曲の歌曲集『木の匙』に、中田喜直の他の歌曲を組み合わせることで、現代の日本人の感覚により近いオペラを作り出すことを試みます。中田は「めだかの学校」や「小さい秋みつけた」など、私たちに馴染みのある多くの童謡や歌曲を生み出した作曲家です。どこか懐かしいようなメロディーは、決して現代だけにフォーカスしたものではなく、夫婦といった普遍的なテーマを内包していると言えるでしょう。
過去の演出作品で、人物の心情や時代背景を丁寧に描くことを心がけたという乃村。小さなオペラの中にどのような風景を垣間見せてくれるのか、ご期待ください。
歌曲集『木の匙』ほか
作曲:中田喜直
作詞:寺山修司
演出: 乃村健一
出演: 乃村八千代(ソプラノ)、砂場拓也(バリトン)、武知朋子(ピアノ)