©中村敦
「詩的アルゴリズム」(絵画)
「数年前、ある科学者の先生の実験室で人工漆の開発をされているのを見せて頂きました。
成分の調合が非常に難しいらしく、ほんの少しのバランスの狂いで乾燥時に表面が縮れてしまう。
気の遠くなるような試行錯誤を繰り返さなければ、到底美しい鏡面のような人工漆に到達する事は出来ません。
実験室のテーブルには、スライドガラスの上にその黒い液体を塗布し、乾燥させたサンプルが無数に並んでいました。
あるものは緩く波打ち、あるものは干しぶどうの表面のようチリチリに収縮し、またあるものはフラットだけど惜しくも表面が曇ってしまっている。
私はこれらの様々な表情を持った<失敗作>に興味を持ち、一体どのようにすればこんな縮みを造る事が出来るのか訊ねました。先生は笑いながら『美術作家というのは、ほんまに変わった事に興味を示すもんやな。』みたいなことをおっしゃって、その大まかな方法を伝授して下さいました。
そして、それからが自分の試行錯誤と実験の始まりです。
物質は様々な特性や条件によってその様相を変えます。遺伝子という特性を備えた生命も同じです。自然界というのはミクロレベルからマクロレベルまで、そういった多種多様な相が混在し有機的に絡まり合い一体となった庭のような場所だと思っています。
私にとって創作活動というのは、カンバスの表面やパソコンのモニターという庭で生成された、様々な<相>を大切にサンプリングし、収集する事なのだと思います。(中村敦)」