京都芸術劇場では、3年前の2010年2月に、「春秋座 狂言立ち合い」として、東の和泉流野村家と西の大蔵流茂山家のヴェテランと若手に、同じ演目を舞っていただくという企画を立て、大評判でした。特に萬斎の『三番叟(さんばそう)』と逸平の『三番三(さんばそう)』は、それぞれが自分の芸と流派の演出の最良の部分を舞台に展開して、いつも見慣れた観客さえも、その舞台に食い入るように引き込まれるという情景を出現させました。
今回は、いささか趣向を変えて、東西の二流派が、同じ曲に出演し、一曲の中でそれぞれの演技を競うという「競演」の試みに挑戦していただきます。髭に「櫓」を構えて防戦する「大髭」の夫(野村萬斎)と、それを抜こうとする女房(茂山逸平)とその手下とが、派手な立ち回りを演じる。奇想天外な大曲『髭櫓(ひげやぐら)』がその曲です。併せて、一種の不条理喜劇とも言える『止道方角(しどうほうがく)』を、茂山家を担う千五郎、七五三のお二人にお願いし、また、「語り」の芸を重んじる野村家の代表的な演目である『奈須与市語(なすのよいちのかたり)』を、人間国宝の野村万作師に語っていただき、狂言の言葉の持つ劇的・演劇的な力と深みを十分に味わっていただきます。
『髭櫓』には囃子が入りますので、「春秋座―能と狂言」にいつもご出演いただいている素晴らしい囃子方の方々に、いわば「演奏会形式」である「素囃子(すばやし)」を聞かせていただくのも、今回の目玉の一つです。
(舞台芸術研究センター所長・演出家 渡邊守章)
企画・監修:渡邊守章(演出家、京都造形芸術大学 舞台芸術研究センター所長・教授)
照明プラン:服部基(ライティングカンパニーあかり組)
照明オペレーター:林悟(ライティングカンパニーあかり組)
舞台監督:小坂部恵次
協力:万作の会、茂山狂言会、空中庭園