京都造形芸術大学・舞台芸術研究センターの公募研究として、劇作家・秋元松代の作品をコラージュした〈劇場実験〉を行います。秋元松代(1911-2001年)は昭和期の数少ない女性劇作家。地点と新たな作家との出会いにぜひお立ち会いください。
秋元松代の作品は、これまで、現実と神話的世界が交錯する独特の劇構造、60年代アングラ演劇における日本的土俗性・肉体性への関心、母性による精神的な慰撫の観点から読み解かれてきました。しかし、秋元の関心は単純に近代を相対化するものとしてのノスタルジックな土俗性とは言えません。日清戦争以降、20世紀の戦争に没入する日本を支えてきた報国の精神構造が、戦後には経済発展という疑似戦争を支えたこと。民間伝承もまた根底で天皇制と同じ枠組をもち、日本においては抵抗のオルタナティヴとなりえず、庶民は国家や公的なもののための犠牲となり続けていること。彼女がテーマとしてきたことは、このような日本の近現代史と社会構造への批評でありました。
それにも関わらず、日本の土着性称揚のような誤った読解がなされてきた背景には、秋元固有の作劇法が見過ごされてきたことがあるのではないでしょうか。代表作『常陸坊海尊』や『かさぶた式部考』などで一種独特な造語とも言うべき方言が使われていることは当初から指摘されてきたものの、あえて人工的に構築された方言を使う必要性に着目した研究および演出はこれまでありません。観客のだれからも距離があり、感情移入を容易には許さない台詞が劇世界にどのような作用を起こしているのでしょうか。
本研究では、戯曲分析や秋元松代という作家その人に迫るというよりは、むしろ、実際に秋元の戯曲を発声することで台詞の音の側面に注目し、演劇における言葉と意味/無意味の関係、台詞の音楽性と語りについて考えます。
(研究計画書より一部抜粋)
演出:三浦基
出演:安部聡子 石田大 小河原康二 窪田史恵 小林洋平 田中祐気
美術:杉山至
照明:藤原康弘
舞台監督:大鹿展明
制作:田嶋結菜
終演後、トークあり
進行:楯岡求美(共同研究者/東京大学文学部准教授)