記述の技術 Art of Description

ジャンル
  • 美術
形 態
  • 展覧会
《展覧会趣旨》

かつて言葉や絵画によって行われてきた出来事の記録は、ある時から映画や写真などの映像メディアが担うようになってきました。それは劇映画や芸術写真と対立するものとしてドキュメンタリーというジャンルが成立したことに端的に現れています。しかし、映像の記録性を素朴に信じることが困難になった現在、ドキュメンタリーは、かつてのようにひとつのジャンルであることをやめ、より多面的で複雑なものになってきています。写真や映画、あるいは現代美術などの諸領域を横断し、政治と美学、現実と表象、真実と虚構といった二元論を積極的に交差させ撹乱する昨今のドキュメンタリー的実践。その傾向は、アーカイヴ形式を援用した作品群の増加という、昨今の潮流と無関係ではないでしょう。

本展の出展作家である小森はるか+瀬尾夏美、佐々木友輔、髙橋耕平は、こうした傾向を自覚的かつ先鋭的に実践しています。映像に加えて、オーラル・ヒストリー、ドローイング、文学作品、楽譜など様々な媒体を複雑に構成することによって、現実的な事象や歴史へのアプローチを試みる彼/彼女たちの作品では、かつてドキュメンタリーが依拠していた対象への窃視的観察という手法やカメラによる現実の客観的描写といった通念は、もはや意味をなさなくなっています。

東日本大震災以後に東北に移住し、被災地の様子を映像やドローイングによって描いてきた小森はるか+瀬尾夏美は、そこで培ってきた技術を「終戦」というテーマに援用した新作を展示します。佐々木友輔は、1910年に長塚節が執筆した長編小説『土』を着想源にして、搖動する手持ちカメラによって場所論を記述しようとする長編作品《土瀝青 asphalt》(2013年)を、髙橋耕平は、観菩提寺の御詠歌「松風」を継承する村人たちを取材した映像作品と唱歌譜によって構成した《となえたてまつる》(2015年)、ならびに、京都のアートウォッチャー「原田さん」の映像と彼が語る半生を綴った年表からなる《HARADA-san》(2013年)を展示します。

彼/彼女たちは、映像の記録性がもはや自明ではなくなったドキュメンタリー以後に、それでもなお、ドキュメンタリー的実践を行おうとしていると言えるでしょう。そこには、出来事や経験を記述するための新たな方法が様々なかたちで内包されているはずです。出展作品を通じて、それぞれの作品の独自性が浮かび上がってくるとともに、今日における〈記述の技術〉の奥行きと広がりが明らかになることでしょう。




《企画》

林田新(京都造形芸術大学専任講師)、櫻井拓(編集者)




《出展作家略歴》



小森はるか|KOMORI Haruka

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映像作家。1989年静岡県生まれ。東京芸術大学大学院美術学部先端芸術表現科修了。映画美学校フィクション科修了。土地に暮らす人々の日常や風景の記録から映画、映像作品を制作している。2012年より、瀬尾夏美と共に岩手県陸前高田市に拠点を移す。2015年仙台市で、土地との協同を通して記録活動を行う一般社団法人NOOKを立ち上げる。主な作品に「the place named」(恵比寿映像祭他、2012年)、「あいだのことば」(せんだいメディアテーク、2012年)、「息の跡」(山形ドキュメンタリー映画祭他、2015年)など。現在は瀬尾とのユニットで、巡回展「波のした、土のうえ」を全国各地で開催している。



瀬尾夏美|SEO Natsumi

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画家、作家。1988年東京都生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。土地の人びとのことばと風景の記録を考えながら、文章や絵をつくっている。2012年より小森はるかとともに岩手県陸前高田市に拠点を移す。地元写真館に勤務しながら、まちを歩き、日々制作に励む。2015年仙台市で、土地との協同を通して記録活動を行う一般社団法人NOOKを立ち上げる。主な展覧会に「VOCA2015」(上野の森美術館、東京、2015年)「クリテリオム91」(水戸芸術館、茨城、2015年)など。主な著作に「花の寝床/3つの視点」(『ミルフィユ05』所収、赤々舎、2013年)。現在は小森とのユニットで、巡回展「波のした、土のうえ」を全国各地で開催している。



佐々木友輔|SASAKI Yusuke

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映像作家、企画者。1985年兵庫県生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。近年の上映・展示に「反戦 来るべき戦争に抗うために」(SNOW Contemporary、東京、2014年)、「第7回恵比寿映像祭 惑星で会いましょう」(恵比寿ガーデンプレイス、東京、2015年)、「佐々木友輔 新作上映[Epoch]」(新宿眼科画廊、東京、2015年)、主な著作に『floating view――“郊外”からうまれるアート』(編著、トポフィル、2011年)、『土瀝青――場所が揺らす映画』(編著、トポフィル、2014年)、「三脚とは何だったのか――映画・映像入門書の二〇世紀」(『ビジュアル・コミュニケーション――動画時代の文化批評』所収、南雲堂、2015年)がある。
http://qspds996.com/sasakiyusuke/



髙橋耕平|TAKAHASHI Kohei

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美術家。1977年京都府生まれ。京都精華大学大学院芸術研究科修了。近年の展覧会に「社会の芸術フォーラム展『躊躇』」(HIGURE 17-15 cas、東京、2015年)、「秘仏十一面観音像開帳関連企画『kiseki-キセキ-』」(観菩提寺正月堂 客殿、三重2015年)「ほんとの うえの ツクリゴト」(旧本多忠次邸、愛知、2015年)、「still moving」(元崇仁小学校、京都、2015年)、「史と詩と私と」(京都芸術センター、京都、2014年)、「HARADA-san」(Gallery PARC、京都、2013年)、主な上映・イベントに「なぜ「私」が撮るのか」(旧所沢市立第2学校給食センター、埼玉、2015年)、「発話する主体と転移をめぐって」(blanClass、神奈川、2014年)がある。
http://www.takahashi-kohei.jp/


《関連イベント》

◎アーティストトーク
日時:5月21日(土)18:00〜20:00
場所:MEDIA SHOP
入場料:500円(京都造形芸術大学の生徒は学生証提示で無料)


《展覧会スタッフ》

山崎秀隆、市下純子、島田真親(アートプロデュース学科3回生)
河野彩子、呉屋直、齋藤智美、森脇盟子、山崎汐莉香(同学科2回生)

イベント情報

日時
2016年5月21日(土)~ 2016年6月12日(日)
平日 13:00~20:00
土日祝 12:30~20:00
会期中無休
場所
[中京区]
ARTZONE
〒604-8031 京都市中京区河原町三条下る一筋目東入る大黒町44 VOXビル1・2階

電車・地下鉄: 京阪電車「三条駅」または地下鉄「京都市役所前駅」から徒歩5分 阪急電鉄「河原町駅」から徒歩10分
バス: 市バス3・5系統「河原町三条」から徒歩1分
※駐車場・駐輪場はございませんので、上記の公共交通機関などをご利用ください。
料金
無料
◎アーティストトークのみ有料
日時:5月21日(土)18:00〜20:00
場所:MEDIA SHOP
入場料:500円(京都造形芸術大学の生徒は学生証提示で無料)
URL
http://artzone.jp/?p=2475
問合せ先
info@artzone.jp
※内容は変更になる場合があります。詳細は各イベント主催者にお問い合わせください。
※チケットや申込みが必要なものは、売り切れあるいは定員に達している場合があります。ご了承ください。