KAB Dialogue インタビュー/対談

Vol.50

インタビュー2016.07.25 UP

MuDA is the New Black-パフォーマンスグループが世界を制す

MuDA is the New Black-パフォーマンスグループが世界を制す

  • 聞き手:オリバー・ヴェルマン
  • 通訳:土山亮子
  • 翻訳:松本知佳

MuDAは京都を拠点に活動するハイパーパフォーマンスグループだ。主催者であり、メンバーでもあるQUICKを中心に、ジャンルの異なる多様なアーティスト達により構成される。日本各地で上演されてきたそのコンセプチュアルで儀式的なパフォーマンスは、2014年のクロアチア・ブルガリアツアーでヨーロッパの観客にも届けられた。第65回ドブロヴニク・サマーフェスティバルを含むツアー公演では、アーティスト集団によるパフォーマンスで観客を圧倒した。MuDAのビジョンや、オフステージの人となりをさらに知るべく、インタビューを行った。

撮影:辻村耕司

撮影:辻村耕司

QUICKが部屋に入ってきたとき、ステージで見る彼の姿とのギャップに、僕は驚きを隠せなかった。彼はウールのプルオーバーを着た、「人間」の姿に変身していた。ブレイクダンスのバックグラウンドを持つ彼は、MuDAの全作品においてディレクション、コンセプト、基礎デザイン、ビジュアルデザイン、ダンスを担当する。MuDAという造語のような言葉は、野生的な感じがする。この言葉は何を意味するのか。MuDAはグループ名であり、彼らの作品制作における方法論をも意味する。問題提起であると同時に、解答でもある。世界にアプローチし、ミクロとマクロに世界を体験する哲学である。 フロントマンであるQUICKは語る。この世界で大人になるにつれ、荒廃や鈍さを強く感じるようになっていったと。その感覚は、グローバリゼーションの結果や人間のもろさといったテーマに立ち向かうパフォーマンスグループの結成へと、彼を向かわせた。世界は効率化、最適化をひたすら追い求める場所へと突き進んでいる。この世界では、だれもが簡単にほかの誰かの代わりになれる。日常生活は、信じられないスピードで生み出される大量生産の製品に溢れ、手仕事を慈しむ心や真の創造力が欠けてきてしまった、と彼は言う。

photo by Ryota Matsumoto

『MuDA×Humanelectro SPIRAL』撮影:松本亮太

「今、まさに今この瞬間、世界で合理主義と個人主義の波が起きている。人は目に見えるものだけを信じて、見えないものや理解できないものすべてを無視している。」MuDAという名前は生命(いのち)の自覚、使い捨て社会への抵抗を意味する。「地球の誕生から、46億年。それを1年だとすると、人間が誕生して、まだたったの3分しか経っていないことになる。この3分の間に、いくつもの魂がいのちを終え、僕たちはこの地球上に人間の世界を築き上げた。」こんな暮らしを続ければ、世界はじきに終わりを迎えてしまう、という明確なメッセージをもって、MuDAは現代的なライフスタイルの合理的な結末に対峙する。彼らは躍動する生命を求め、他者や物体、大地などと常に衝突する独自の動きを立ち上げていく。

MuDA Photos_Yamaotoko_by Koji Tsujimura

『MuDA 山男』撮影:辻村耕司

MuDAは前に進み続ける。日本の伝統と文化は多様化したが、デザインボキャブラリーが失われることはなかった。彼らのパフォーマンスの舞台となるのは、都会のコンクリートジャングルの屋上から手つかずの竹藪、神社までと幅広い。しかし、初期のコンセプトに忠実であるということは、常に変わらない。 彼らの最新作『MuDA black chamber』は、名村造船所跡地のアート複合施設・クリエイティブセンター大阪(CCO)にて行われた。スイミングプールのようなステージの壁は、大量のゴムチューブに覆われ、エッジーなインスタレーションスペースと化していた。会場に一歩足を踏み入れると、外界とMuDAが作り出した黒い有機体の間にある膜を通り抜けたような気持ちになった。ホワイトキューブの中でアート作品の展示やパフォーマンスを行うことで、鑑賞者の意識を集中させるという西洋的なコンセプトに対し、彼らはその対極「ブラックチェンバー(黒い部屋)」を作り上げた。そこは光さえ吸い込み、ブラックホールのように外界をカオスへと飲み込む。公演の始まり、ファンキーなディスコ音楽に合わせて、ミストレスがゴムチューブの鞭を床に打ちつける姿が、暗闇の中に見え隠れする。まるで黒豹が檻の中を行ったり来たりするのを見ている動物園のお客さんのように、観客は頭上の客席から、グロテスクな光景を見下ろしていた。

MuDA Photos_black chamber3_by Koji Tsujimura

『MuDA black chamber』撮影:辻村耕司

けたたましいホイッスル音とともに、パフォーマンスが始まる。7人の男たちが、弱い光の中に、ぼんやりと現れる。MuDAの幕開けだ。スピーカーからのベース音がスズメバチの巣のように鳴り響き、チクチクと肌を刺す。上演中、周りのインスタレーションはステージをミクロスケールの戦場へと変貌させる。衝突と接触のコンビネーションが繰り返され、やがて何層もの肉体彫刻となっていく。これはカオス理論だ。身体が原子のように互いにぶつかり合い、常に流動しながら新たなかたちと感覚を生み出していく。インタビューの中で、QUICKはこのように語った。「僕たちの動きのベースは、いのちのリズムだ。倒れても立ち上がり続けるという、宇宙のリズムのようなもの。人は身体的、社会的なコンタクトを避けるようになった。その結果、社会はコミュニケーション能力を欠き始め、世代間のギャップも広がり続けている。」公演に続く形で、彼らは公演で使用した物などの痕跡を集め、2日間限りの展覧会を行った。観客の心に迫った、他の誰にも真似することのできないMuDA独自の運動の痕跡である。こうしてパフォーマンスアートの「残らない」という特性を越えて、作品はさらに多くの人々の目に触れることになる。展示された痕跡は、鑑賞者それぞれの記憶の旅へといざなうだろう。

MuDA Photos_black chamber_by Koji Tsujimura

『MuDA black chamber』撮影:辻村耕司

MuDAが表現手段としてパフォーマンスアートを好む一方で、展覧会やビジュアルも必要不可欠なトレードマークでもある。小惑星の形をした陶器、ゴムチューブで出来たブードゥー人形や金属作品など、公演時にハンドメイド商品の販売も行っている。多様なメディアや表現方法を混ぜ合わせることで、彼らはジャンルの越境者となる。彼らが守るスタイル上のコンセプトは、削ぎ落とし、真に重要な部分に集中する、という日本的とも言える規律である。『black chamber』に見られるように、不必要な要素をそぎ落とすMuDAのアプローチは、闇の中に存在を沈めるということだ。闇、そしてそれに見出される未知の美しさについては、谷崎潤一郎が記している。QUICKは黒というモチーフを、生と死のサイクルをめぐる終わることのない瞑想へと変化させていく。彼は言う、黒はそれ自体では存在しない、と。黒は、アイディアの塊に溶け込むことで独立性を捨て去った全ての色に向けたメタファーなのだと。それは永遠の約束であり、無の空虚である。黒は、その正体を明かさないまま、見る人自身のまだ紐解かれない秘密を捉えてしまう。日本の「侘び寂び」のように、MuDAは未知の世界へと私たちの手を引き、目に見える部分の裏側にある美しさを見せてくれる。センセーションは、平凡という殻の中にあるのかもしれない。まるで書道家の墨のように、QUICKは黒を使いこなす。彼の言葉に、プロフェッショナルなビジュアルアーティストとして、日本の美意識を熟考してきた歴史を垣間見た。

MuDA_Darkness man

別府現代芸術祭2015 混浴温泉世界『MuDA Darkness man』

「今のところ、人間の起源を解明する持論も、この惑星に生きることの答えもわからない。この謎に迫る唯一方法が、僕にとっては芸術なのだ。」『山男』『男祭り』『みのむしプロジェクト』などの公演タイトルは、人間の起源、いのちの意味など、根源的な問いを暗示している。世界中でこのような問いに対するアプローチと答えが重ねられてきた。QUICKにとって、生きることは興亡衰勢の競争だ。「生きることは競争であり戦いである。倒れても、立ち上がらなければならない!」適者生存の世界では、動かなければ、何も起こらないし、すぐに誰かが追い抜いていく。「前に進むのが難しいときもある。身動きが取れないことも、ただ立ち尽くすことも、倒れ込むことだってある。でもそのままそこにいれば、物語は終わってしまう。」

MuDA Photos_black chamber2_by Koji Tsujimura

『MuDA black chamber』撮影:辻村耕司

彼の主なインスピレーションの源が、戦後日本の政治運動であることは、さほど驚くことではない。 「当時の人々は、本当に変えたかったんだ。彼らは理想に向かって実際に運動を起こして社会問題に立ち向かっていた。」 彼はこの戦後日本の社会運動を単なる社会現象としてだけでなく、人間の根底にあるエネルギーという大きなコンセプトとして理解している。一つの方向へ突き進むポテンシャルはすべて、逆の方向に転じる可能性を秘めている。それは自分のポジションを変えるシンボリックな行動である。MuDAにとっての「対立」は、外界への対峙を意味するだけでなく、ひとりの個性としての可能性を知るべく、自分自身に立ち向かうことでもある。黒いボディーペイントがなくても、QUICKには特別なオーラがある。こうして直接話してみると、彼が自分自身の言葉を強く信じているということ、そして目の前に座っているこの男性は、ステージ上の彼とさほど変わらないということがよくわかった。最後に、MuDAが実に多様なジャンルのアーティスト集団であるということも記しておきたい。ダンサー、パフォーマー、サウンドデザイン・DJの山中透をはじめ、制作マネージャーを務める秋山はるかもまた、陶芸家である。2016年の夏が楽しみだ。彼らは国内最大規模の芸術祭、瀬戸内国際芸術祭2016でパフォーマンスを行う。MuDAは2012年より京都芸術センター制作支援事業を利用しクリエーションを行ってきた。彼らのような制作室使用者がいることは、京都芸術センターの喜びである。生きることは、挑戦だ。しかしMuDAが正しいとすれば、世界にその名を刻み込もうと必死にもがき苦しむその時に、人生の最も貴重な瞬間が立ち現れるはずだ。

<MuDA 次回公演>

瀬戸内国際芸術祭2016 ・夏会期

犬島パフォーミングアーツプログラム「MuDA 鉄」

● 日時

2016年7月29日(金) - 31日(日)

開場 18:30 開演 19:00

● 場所

犬島精錬所美術館 敷地内

アクセス >>> http://benesse-artsite.jp/access/

● 料金

一般:前売 3500円/当日4000円

学生:前売 2000円/当日2500円

作品鑑賞パスポート割

*当日受付時に作品鑑賞パスポート提示で一般価格より200 円割引、返金

*チケット料金には、お帰りの際の岡山までの無料送迎(フェリー、バス)が含まれます。

● 予約

MuDA muda.reserve@gmail.com

*その他のチケット取扱い窓口はMuDAweb参照。

[ MuDA 鉄 特設website ]→http://muda-japan.com/iron/

● お問い合わせ

瀬戸内国際芸術祭総合インフォメーションセンター

TEL087-813-2244(受付時間7:00 ~ 20:00)

[ 瀬戸内国際芸術祭2016 ]→http://setouchi-artfest.jp/

[ 犬島パフォーミングアーツプログラム ]→http://benesse-artsite.jp/inujima-pap.html

Plofile

MuDA

ダンサー・アートディレクターのQUICKを中心に、年代、ジャンルの異なる多様なアーティスト達が集まり、京都を拠点に結成されたハイパーパフォーマンスグループ。宇宙のリズム =「ぶつかることから始まる」、いのちのリズム =「立ち上がり続ける」等、生命 (いのち) の振起活動を模索しカタチに起こした、他者や物体、大地等と常に肉体を衝突させる、MuDA独自の身体術を軸に活動を展開。生命、身体、負荷、儀式、宇宙といった普遍をテーマに、ダンス、音楽、映像、美術等、多様なメディアを使用したパフォーマンス、展示、WS等を各地で行う。
Website: http://www.muda-japan.com/top.html

オリバー・ヴェルマンOliver Wellmann

美術史家、フリーランス翻訳家、彫刻家。ベルリン在住。ベルリン自由大学で、ヨーロッパ美術史、日本文化、宗教学を学ぶ。特に、彫刻の理論および彫刻とニューメディアアートとの交点を専門とする。上智大学への留学後、2016年ベルリン自由大学を卒業。2016年2月〜3月末の2ヶ月間、京都芸術センターのインターンを経験。現在ベルリンにて宗教学修士課程に在籍しながら、彫刻作品の制作、人権団体での活動も行っている。

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