KAB Dialogue インタビュー/対談

Vol.42

対談2015.05.12 UP

アーティストは外交官であり、AIRはネットワークであり、ネットワークはコミュニティ

ディスカッション「アーティスト・イン・レジデンスの実践と評価」

  • 編集:内山幸子(アートマネージャー)

京都文化芸術コア・ネットワークでのアーティスト・イン・レジデンス(以下、AIR)をテーマとする例会が、昨年に引き続き行き、2015年1月31日(土)に京都芸術センターで行われた。ゲストであったResArtis会長マリオ・カロ氏も述べた「AIRの役割とはアーティストを支援することである」という前提と、行政評価はいかに結びつくのか。AIRの可能性を探る。

京都文化芸術コア・ネットワークでのアーティスト・イン・レジデンス(以下、AIR)をテーマとする例会は、昨年3月に開催された「アーティスト・イン・レジデンスのいま」に続いて2回目となる。 国内のAIRは、1990年代に欧米の仕組みを取り入れながら盛んになっていったが、その目的や期待される効果、成果は、文化政策とともに変化してきたと言えるだろう。まず1997年に文化庁の5カ年計画「アーティスト・イン・レジデンス事業」が始まると、自治体主導のAIRが普及し、地域特性の活用や教育活動といった「地域貢献」としての役割が求められることになった。さらに、再び2011年に文化庁の「文化芸術の海外発信拠点形成事業」が始まると、グローバル社会における海外への文化発信の役割が期待されるようになっていった。 本会は、第1部でRes Artis会長のマリオ・カロ氏による基調講演『文化外交としてのアーティスト・イン・レジデンス』、第2部でアートNPOリンクによる『NPO法人によるAIR調査』の中間報告、第3部で参加者全員によるディスカッションが行われた。世界的な視野でみたAIRの潮流と文化外交としての意義についての情報を共有するとともに、AIR事業に携わる個人・団体が実践を通していかにつながるか、今後のネットワークのありようについて真摯な意見の飛び交う場となった。本稿では、この会で上がったそれぞれの現場の声を記録し、報告する。

−−−−−文化外交としてのアーティスト・イン・レジデンス

 ResArtisは、70カ国以上・400以上のAIR実践団体などで構成される世界最大規模の国際ネットワークである。世界各国で国際会議を開催してネットワーキングを促進するほか、AIRに関する事例研究や政策提言を行い、そのリソースライブラリーを共有している。ResArtis会長であるカロ氏は、本会の基調講演で「アーティストは外交官であり、AIRはネットワークであり、ネットワークはコミュニティである」と述べた。そもそも外交とは主権国家を確立するための手段であるが、グローバルに活躍する現代のアーティストたちが担う文化外交は、必ずしも生まれ育った国家を代表していない。越境するアーティストたちによる文化外交は、むしろホストとなるAIR団体の態度により輪郭が見えてくるものである。外交的な目的を達成するものもあれば、イデオロギーの確立を目指すといったものもある。

 カロ氏は、明確な到達地点を設定している事例として、5つのAIRを紹介した。アラブ圏とヨーロッパ諸国との平等な文化外交を目指すNPO「ロベルト・チメッタ基金」、植民化の歴史を持つカリブの島国・バルバドスで革新的かつプラットフォーム的な場所作りを行う「フレッシュ・ミルク」、発展途上である南アメリカ諸国のネットワーキングを目的とするサンパウロの「ビデオブラジル」、環太平洋におけるアジアとオーストラリアのネットワーキングを目的とするメルボルンの「アジアリンク」、そして、北米と環太平洋地域の先住民アートおよびアーティストの支援や交流促進を行うワシントンの「ロングハウス」である。カロ氏は、これらがいずれも国家間の外交として行われておらず、個人が自ら地域や領域を定めて立ち上げ、活動しているものであると指摘し、ここにAIRを通じた文化外交の一つの可能性が示唆されていると述べた。

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マリオ・カロ氏

−−−−−AIRの役割について

 テーブルディスカッションは、約40人の出席者のほぼ全員が発言する場となった。まず話題となったのは、AIRの役割についてである。カロ氏が「AIRの役割とはアーティストを支援することである」という大前提を提示した上で、すでにAIRを行ってきた団体から、現場での実感が語られた。そのいくつかを紹介する。

 「そもそもアーティスト支援として始めたが、結果的に地域振興の役割を果たすようになった。しかし現在は、再びアーティスト支援に戻ってきている。時代や社会やアートシーンの変化のなかで役割も変わって行くのではないか」(遊工房アートスペース/村田達彦氏)、

 「各地で公演するダンサーたちが、劇場とホテルの往復だけで地域との交流がないまま去ってしまうことがもったいないと感じていて、一方で公共ホールは鑑賞だけではない芸術文化を通しての地域との関わりを求めていた。その思いを合体するかたちで、JCDNのレジデンス事業は始まった。現在、『習いに行くぜ!東北へ!』や『国際ダンス・イン・レジデンス・エクスチェンジ・プロジェクト』の取り組みを通して、地域の固有の文化に新たな角度から光を当て、再発見していく役割を担っている。(NPO法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク[JCDN]/佐東範一氏)、

 「いろいろある役割のなかで、一番にはアーティスト支援をあげるが、やっぱりアートによって笑顔をもたらしたい。アーティストたちとの交流によって、地域の人たちが喜ぶ顔がもっと見たいと思っている(後のまとめで「幸福の追求」と表現された)」(Art Space寄す処・沼沢忠吉氏)、

 「公立のAIRの場合、アーティスト支援と地域振興との双方の役割を求められるが、調整は簡単なものではなく、現場をとりまとめる担当者の力に大きく委ねられている。被災後の地域で活動する陸前高田AIR(民営)では、現在、アートおよびアーティストは人々の生活や地域文化の記憶を残し、次世代につなぐ役割を担うことができると考える」(陸前高田AIR/日沼禎子)。

  会場にはAIRを設立したばかり、あるいは今後立ち上げようとする参加者からは、「クラフト作家のためのAIRが少ないため、クラフトアーティストによる交流を神戸で仕掛けていきたい」(がらす庵/吉田延泰氏)、

「既存のAIRで受け入れられないアーティストたちをギャラリーの立場からサポートしたい」(芦屋画廊/北川祥子氏)という声があった。

 その他、「アーティストの居住や制作場所の支援を、広い意味でAIRととらえて行っている。また、アーティストの中でもAIRで何を行うかの認知度が低いので、内容について相談を受けることがある。またウェブサイトでも紹介している」(東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス[HAPS]/芦立さやか氏)という例や、

 「収益を自身のアーティスト活動にあてるためにAIRを設立した。自分も国内外のAIRを経験したが、日本で活動する基盤がつくれなかったため、自ら拠点を持つことにした」「企業の私有財の有効活用という視点でAIRを実施している」という例もあり、AIRを始めた発端や動機、AIRの捉え方についても、実に多様な状況が浮かび上がった。

  さらにAIRを活用する側であるアーティストたちからの声もあった。「青森国際芸術センター[ACAC]のAIRプログラムで滞在制作したことによって、別のAIRへ招聘されたり、その後の活動にも繋がっている。他のレジデンスを経験し比較すると、特にACACは人的・情報面でのサポートが手厚く、現在、制作においてリサーチが重要な自分にとっては大変ありがい環境であったことがよりわかった」(山本聖子/アーティスト)、

「日本のAIRではパブリック・プログラムが要請されたり、小学校などの地域との交流が記録に残るかたちでAIRプログラムをつくるところがあり、実際には時間や作業量に微妙な無理が生じる。アーティストとしては、それがプログレスな内容で、可能な限りは協力するというスタンスの場合が多い。地域交流には本来時間がかかる。一方で、AIRでの出会いと交流がきっかけとなり、東日本大震災後には同地域での別の活動へとつながった。AIRは、時代の変化と、それに伴う未来に相関しうる可能性を持っている」(小山田徹/アーティスト、京都市立芸術大学教授)。

AIRの質に言及するコメントとも言える。そしてここで、S-AIRの柴田尚氏から「時間」というキーワードが提示された。

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会場の様子

−−−−−キーワード1「時間」

 「時間」は、この会に参加したの多くの人から語られたキーワードの1つである。柴田氏は、「アートには長い生命と熟成の時間があり、アーティストの評価は時とともに変化する。AIRはアーティストの成長に長い時間関与していることを実感している」と述べ、それによって短・中・長期の軸でのそれぞれ評価の指標があるとした。短期では、動員数など数値や経済用語に置き換えられるデータ。中期では地域活性化、社会包摂といった軸での変化(学校が国際交流するようになった、地域の人々が明るくなった、作品が物議を醸した等、周辺の社会に起きる何らかの変化)。そして招へいした作家や滞在中につくられた作品や活動そのもの、つまり、「芸術としての価値」は10、20、30年後といった長期の軸でつくられていく。長い時間がかかる「人づくり、文化づくり」を視野に入れた評価の指標を考慮するべきだとした。

 京都芸術センター・山本麻友美氏も、「若手芸術家支援としてAIRに取り組んでいる。AIRアーティストに作品の完成をミッションとしないのは、AIR期間での制作には限界があるし、未来への投資と考えているからだ。ただしこれは行政のPDCAサイクルに則った評価制度には乗りにくい」と述べた上で、中・長期の成果に学んだ短期の評価指標の発明が求められているとした。

−−−−−キーワード2「多様性」

 もう1つ、今回のディスカッションで参加者から多く語られたキーワードが「多様性」である。そもそもAIRの目的やプログラムは多様であり、多様なAIRが多様な役割をもってアートを支えている。展覧会のための滞在もあれば、アーティストの旅や休息のためのAIRもある。福祉や教育といった他の社会分野との架け橋となる可能性もあり、ひいてはアート自体の表現の多様性を担保することにも繋がる。その多様さ故に評価指標も得にくいAIRであるが、それぞれの評価事例を丁寧にすくい上げていき、共有していくことの必要性が語られた。ここからディスカッションは、そのためのネットワークの可能性についての議論へと及んだ。

−−−−−AIRの課題。そして今、ネットワークに求められること

 山本氏は「支援制度の面をとっても、今は公立と私立のAIRとの間に格差があるが、公立のAIRだけが公的な支援を得てやっていても発展しない。連携していくためのネットワークやプログラムが必要」と述べた。AIRの課題としてはしばしば「事業資金の調達」が挙げられるが、AIRの目的の多様性とともに、資金の得方も多様にしておく方がよいだろう(海外アーティストたちは自己資金の調達に長けているし、海外の組織と共同出資して行うプログラムの例もある。本ディスカッションの参加者には数年に渡って銀行からの融資を受けているNPO団体もあり、その団体の返済の実績が他の文化団体への融資にも繋がっていく可能性があるという意味でとても重要な事実だった)。

国内外の資本を呼び込む方法を検討していくためにも、世界的なネットワークを構築していくことが重要である。それぞれの経験値や情報をシェアし、世界のAIRの潮流を把握することは、国際的な視野からの社会的理解を深めることとなり、そういった資本の獲得を促進するだろう。本会の共同主催者であるAIRネットワーク準備会(*1)には、そういった世界のAIRとのつながりを生み出すことや、AIRの評価の指標を発明していくことが期待される。

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アートNPOデータバンク2014-2015

 最後に、第2部の「NPO法人によるAIR調査」の中間報告は、全国のアートNPOを対象に実施したアンケートをもとに、これまで把握されてこなかったNPOが主体で運営するAIR活動の実態調査の報告である。これについてはすでに「アートNPOデータバンク2014-2015 特集|アートNPOによるアーティスト・イン・レジデンス事業の実態調査(発行:特定非営利活動法人アートNPOリンク)」としてまとめられ、PDFファイルでダウンロードもできるため、リンクを参照いただきたい。

*1「AIRネットワーク準備会」 2011年に始まった文化庁の「文化芸術の海外発信拠点形成事業」が2015年度で終了することを見据えて、2014年に始動した。日本のAIRがネットワーキングによって自らAIRのプレゼンスを高め、政策提言していくこと、利用者であるアーティストへのAIRを活用するための情報普及、国内外との共同プロジェクト推進などを担う、相互の<中間支援的ネットワーク>組織を目指す。準備会を経て、今年度より本格始動予定。

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内山幸子

2006-2011年秋吉台国際芸術村を経て2011-2012年メキシコ市に滞在。2013年よりフリーランスのアートマネージャーとして関西を拠点に活動している。近年の活動にAIRネットワーク準備会事務局(NPO法人アートNPOリンク)、Breaker Project、公演芸術集団dracom、高槻井戸端ダンスプロジェクト等。

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