むらたのこうした眼差しは、近年の取り組みに見ることができます。2017年の「Internal works / 水面にしみる舟底」では、デジタル写真をインクジェットプリントした布に裏面から水を与え、イメージを「こちら」に引き寄せ、私たちの記憶や認識の揺らぎを染色という現象に置換してみせた作品を発表。2018年の「Internal works / 満ちひきは絶え間なく」では、染料が繊維の毛細管現象により染み上がる様により、単一と思われた色に多様な「色」が含まれていたことを明らかにし、私たちが「ひとつ」とすることで見落としている「多様性」という存在を示します。また、同一の現象を用いた作品として、布を折り紙の二艘船の形に折り、染料と水に浸けることで次第に多彩な色が現れる様子をインターバル撮影による映像作品として展開した作品では、染色という結果が持つ不可視のプロセス(時間)そのものまでを作品へと展開しています。
本展「Internal works / 境界の渉り」は、むらたの「染色」への多様な眼差しのひとつの合流点として、再びこの「境界」に焦点を合わせて構成されます。それは色と色の滲みやせめぎ合いに置換された「境界」という「線や図」を布に描き示すことではなく、自身と世界を含んで揺らぐ「境界そのもの」を出現させようとしているかのようです。そして、それは[染める/染まる][うつす/うつされる][地/図]などの関係が『分かたれながらもひとつとなっている』染色だからこそ可能なものかもしれません。