ドイツを拠点に80年代から活躍する現代音楽家ハイナー・ゲッべルスが、ついにKYOTO EXPERIMENTに登場する。各地の国際フェスティバルでも上演されてきた音楽劇『Black on White』は、世界トップレベルの室内合奏団「アンサンブル・モデルン」のために書き下ろした作品。
紙の上をペンが走り、文字が書かれる。マイクで拾われたペンの音は朗読の音と重なり、やがて音楽家たちが舞台に現れる…。楽器を準備する間、ある者は書き物をし、ある者は音を立てている。ある種のインスタレーションようにして始まるこの舞台は、ある瞬間に突然、音楽家たちがコンサートを始める。現代音楽、ジャズ、黒人音楽、礼拝音楽といった多彩な楽曲を次々と演奏する中、大太鼓にテニスボール、フルートにあわせたやかんの音、朗読音源など、楽器演奏だけにとどまらないあれこれの音が入り混じり、振付された音の群はある種の風景画を空間に描き出す。鑑賞者はそこに自分が関心を抱いているもの、あるいは自分自身を見出すことになる。‘不在’は中心の不在であると同時に、中心は舞台上にいない死者でもある。舞台にはハイナー・ミュラーがエドガー・アラン・ポーの小説「影」を読み上げる声が幾度となく挿入される。東ドイツの重要な劇作家、ミュラーの演劇作品で音楽を担当してきたゲッベルスからの、ユーモアあるレクイエムのようにも聞こえてくる。