KAB Dialogue インタビュー/対談

Vol.38

インタビュー2015.02.07 UP

「独立独歩体制」京都が、起爆剤を持ったとき

音楽評論家から見た京都の音楽シーン

  • 話し手:岡村詩野(音楽評論家)
  • 聞き手・文:土門蘭
  • 撮影:田中郁后

2年前に京都に引っ越してきた、音楽評論家の岡村詩野さん。月に二度は東京に滞在しこれまで通り執筆活動を続けるかたわら、東京で15年以上続けている『音楽ライター講座』の京都校を開いたり、京都精華大学のポピュラーカルチャー学部で講師として授業を行ったりと、ここ京都の地でのメディア育成にも携わっています。
岡村さんを京都に引き寄せたものとは一体何だったのでしょう?またひとりの音楽評論家から見て、京都の音楽シーンはどのように映っているのでしょうか?ミュージシャンだけではなく、彼らを紹介する側であるメディアについてもお話をうかがいました。

おもしろいものを作れるのは、果たして東京だけなんだろうか?

土門:岡村さんはもともと京都ご出身ということですが、京都にお住まいになるのは何年ぶりですか?

岡村:う~ん、どれくらいだろう……かれこれ四半世紀ぶりですか。

土門:「京都に戻ろう」と決められたのはなぜだったのでしょう。

岡村:「京都に戻ろう」と決めたというより、いろんなきっかけが重なった結果という感じですね。東京にいた時から、私が京都に住んでいたという縁から京都のミュージシャンの方とはなんだかんだお付き合いがあったんですよ。そんな中、京都でラジオのお仕事をいただいたのを機に、徐々に京都の方とのご縁が増えていって……。でも、根本的なきっかけは、2007年からくるりが主催している『京都音楽博覧会』ですね。
くるりの岸田君は、デビューした時から一貫して「自分は京都のバンドである」というアイデンティティを持っている人です。全国的に人気が出た後もそれは変わらず、一時は活動の軸を京都に移していた時期までありました。「おもしろいものを作れるのは、果たして東京だけなんだろうか?」という疑問を投げかけてきたバンドがくるりであって、その集大成が『音博』だったんです。その問いは、京都の音楽シーンだけでなく、全国に波紋を呼びました。特に、地元に密着して音楽を続けている方々にとても大きな励みを与えたと思います。
私自身にとっても、『音博』は自分を見直すきっかけとなりました。これまで自分が携わってきた“メディア”というものを見直したときに、京都……いえ、関西ではそういったものがほぼないということに気づいたんです。もちろん媒体はあるんですが、“京都の音楽”、“関西の音楽”に特化したものがまるでなかったんですね。

土門:確かにそうですね。関西のカルチャー誌であったエルマガジンも、ぴあ関西版も休刊してしまいましたし……。

岡村:でも『音博』以外にも、京都の音楽シーンにはおもしろいムーブメントが常に起きていました。ミュージシャンだけじゃなく、レコードショップ、ライブハウス、イベント……京都ではこんなにおもしろい動きが生まれているのに、それらを伝えるメディアだけがない。だからあまり知られていない。それは、とてももったいないことだと気づいたんです。
そんなこともあって、行動範囲を首都圏から関西まで広げてみようと考えたんです。今でも月に二回は東京に滞在していますし、京都に拠点を移すというよりは行ったり来たりする範囲を広げた感じですね。アングルを変えて東京を見てみる、ということもしてみたかったので。

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京都精華大学ポピュラーカルチャー学部では非常勤講師を務めている。
先日授業の一環として、音楽コース2回生の生徒が企画した音楽イベント『明かりを消して灯りをつけて』が知恩寺で開催された。
下記サイトでは、音楽コース2回生のポートフォリオ優秀作品が発表されている。
http://pc.kyoto-seika.ac.jp/blog/info/2015/01/30/652/

「独立独歩体制」京都の、魅力と課題

土門:実際に住まれてみて、京都の音楽シーンの第一印象はいかがでしたか?

岡村:まず驚いたのは、街のサイズが小さいのでたちまち知り合いが増えてしまうということ。そして、音楽が独立してあるわけではなく、食、ファッション、アート……あらゆるジャンルのものとフラットに存在しているということでした。だから垣根を超えて、あっという間にひとつの輪ができてしまう。「何か一緒にやろうよ」という一体感が生まれやすいんだなと思いました。
そしてもうひとつ大事なのは、音楽業界に限らず、文化的な面で大手資本がほとんど入ってきていないということ。京都は大手のフランチャイズがまだまだ行われていない、依然として小商いの多い街です。レコードショップひとつとっても、京都には個人経営のお店がいくつも存在しているし、「JET SET」だってもともとは京都が本店ですよね。

土門:そうですね、個人のライブハウスやスタジオも多いですし……音楽以外でも、書店、カフェ、パン屋なんかも、個人経営のお店が多いですね。

岡村:京都で何かをやろうとする人は、すべてがいちから手作り。そこがすごくおもしろいし、大きな可能性を持っているように思います。東京にはない独立独歩体制がいまだにあって、なおかつそれがどこからも侵されていないというのは大きな魅力に感じます。
ただ、やっぱりそこには善し悪しがあって、関西に来て痛感したのはギャランティの安さでした。要するに大きな資本が落ちていないから制作費が出せないということなんですね。言ってみれば、商業的な成功を度外視したような緩い“学生ノリ”が文化の軸になっているわけです。もちろんそこが魅力ではあるのですが、やはりある一定の経済的な緊張感がないと質は高まりにくい……そこがいちばんの課題ではないでしょうか。
京都は文化的に非常に成熟した街です。東京一極集中を解消するだけの魅力を持った都市の一つだと思います。現場にいる我々も含め、もう少しそのことに自覚的になった方が良い。京都の良さを残しながら、商業的にも成立させる。そこが重要な課題だなと感じています。そういった意味でも『音博』はすごく成功した形だと思いますね。

起爆剤の力を京都自身が持つということ

cd

左:Homecomings/『Somehow, Somewhere』、左上:Hi,how are you?/『?LDK』、左下:本日休演/『本日休演』、右:yoji & his ghost band/『My labyrinth(ぼくのラビリンス)』

土門:京都の若手ミュージシャンについては、どのような印象を持たれましたか?

岡村:大きく分けてふたつのタイプがいるなと感じています。ひとつはHomecomings、Hi,how are you?といったバンドのような、京都という街に土着的な関心がないタイプです。Homecomingsは全歌詞英語で洋楽志向が強く、京都っぽさは皆無。東京のバンドともよく一緒にライブをしています。Hi,how are you?も、東京のROSE RECORDSというレーベルからCDを多数出しています。この2バンドは東京でも受け入れられやすいタイプ。実際に東京でもよく知られているし、「京都にこういうバンドがいるんだ」ということを東に伝えるいい見本になっていると思います。
もうひとつは、こちらも私の応援している本日休演、yoji &his ghost bandといったバンドのようにさほど野心をむき出しにしないタイプ。本日休演はみんな現役京大生で、くるりとかBO GUMBOSとか、いなたさや土着性を持った京都の先達の味を引き継いでいます。でも、どちらのバンドも古くささはなく、とても現代的ですが、いかんせん欲がない。京都のバンドには、こちらのおっとりしたタイプが多いように思います。
私は、もっと東京と行ったり来たりしてみたらいいのではと思うんですよ。そして感覚を掴んだらいい。行ってみて東京が合わないのなら、東京のようにミュージシャンとしてしっかりやっていけるような地盤を、どうしたら京都で作れるのかを考えることが大事なんだと思います。そのためにも彼らをサポートするメディアが成熟していかないといけないわけです。アーティストとして成功するための地盤が東京だけにしかないっていうのはもったいないですからね。
実は本日休演も、東京で話題になったのは代官山で行われたイベント『club snoozer』でシャムキャッツや王舟と出演してからなんです。やっぱり、東京での活動が起爆剤になることが多いんですよね。でも本当は、その起爆剤の力を京都自身が持って全国に届けることが大事なんじゃないかなと思います。だから私達が、京都の現場をちゃんと見て発信していかなきゃいけないんですね。ただ、それにしても西と東を往復するのはそんなにたやすいことじゃない。新幹線乗車は高価だから、インディー・バンドやアーティストの多くは安い深夜バスを利用したり自家用車で移動したりしている。メンバーみんなで乗り込んだバンを交替で運転して到着したら疲れを取る間もなくすぐライヴ、終わったら宿泊せずにその足でまた帰る、ということを京都に限らず地方のアーティストのほとんどが一度は体験しているはずなんです。逆に東京からツアーで京都に来るバンドも同じです。せっかく今、京都でライヴをやりたいと願う若手が増えているのですから、申請すればアーティストが自由に泊まれる宿泊場所を作ったり、移動費を助成するシステムを行政がサポートするなど京都市が文化事業を今一度見直してくれると大きく違ってくると思います。京都を文化と音楽の町にするためには行政の理解は絶対に必要です。

見つけてほしいのは「音楽と能動的に関わる方法」

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『音楽ライター講座in京都』の様子

土門:東京で10年以上行われている『音楽ライター講座』を京都でもスタートされたのは、そういった気持ちがあったからでしょうか?

岡村:これは東京で始めた時と同じなんですが、『音楽ライター講座』とは言うものの、実はライターを育てることが主な目的ではないんです。
京都の講座に来るのは大半が学生なんですが、彼らのほとんどが、「音楽が好きで何かをやりたいけれど、何をどうしたらいいのかわからない」という子達です。私はこの講座を通じて、彼らに“音楽と能動的に関わる方法”を見つけてほしいと思っています。
ライターでなくてもいいんです。カメラマンでも編集者でも、レーベルでもイベンターでも何でもいい。文章を書くことを通じて、自分なりの音楽との交わり方を見つけてほしい。この講座が、「自分にも何かできるかもしれない」と思えるきっかけになったらいいなと思っています。

土門:それでは最後に、これからひとりの音楽評論家としてやっていきたいことについて教えてください。

岡村:京都に来てから、トーク・ショーや中古レコードのイベントへの出店などいろいろな仕事をいただくようになりました。音楽関係の仲間以外の交流も一気に増えて、おかげさまで貴重な現場を経験させていただいているし、つながりを作らせていただいていると思っています。
今後はこういったつながりを活かしながら、東京と京都をつないだり、他ジャンルとやり取りするなど、自分自身もパイプ役になれたらいいなと思います。そして、いつか京都からおもしろい動きを発信する場所を作りたいですね。もちろんちゃんと商業的にもまわしていけるような、プロダクション的なものを作れたらなと思います。

Plofile

岡村詩野(おかむら しの)

音楽評論家。東京生まれ京都育ち。現在は京都時々東京、な毎日。様々なメディアでの執筆の他、東京と京都で音楽ライター講座の講師を、京都精華大学ポピュラーカルチャー学部にて非常勤講師もつとめている。

■音楽ライター講座(オトトイの学校)
http://ototoy.jp/feature/index.php/school
■音楽ライター講座in京都
http://ki-ft.com/school/
■ツイッター・アカウント
@shino_okamura

土門蘭(どもん らん)

フリーペーパー『音読(おとよみ)』副編集長。株式会社翠灯舎でライター/ディレクターとして勤務。

田中郁后(たなか いくこ)

フリーペーパー『音読(おとよみ)』編集長、株式会社翠灯舎 代表取締役。印刷物やWEBなどのデザインを中心に様々な方面で活動中。

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